イスラエルに対するアメリカ国民の“温度差”
アメリカの大統領選挙について、もう少しお話しします。イスラエルとハマスの戦闘が始まる2023年10月7日以前は、バイデンが支持率でトランプを少し上回っていました。
ところが戦闘が始まると、風向きが変わりました。イスラエル軍の空爆によって、ガザ地区で大勢の民間人が犠牲になり、子どもたちが死んでいる。そんなニュース映像がアメリカ国内で流れました。
それを見たZ世代(1990年代後半~2000年代前半生まれ)をはじめとする若者たちは、「なんてかわいそうなことをしているのだ」と、イスラエルを非難するようになりました。彼らは年配者たちと違い、イスラエルというユダヤ人国家の成り立ちを深く知りません。迫害されたユダヤ人の歴史やナチスによるホロコーストを知らない。あるいは関心が薄い。ユダヤ人に同情的な年配者とは温度差があるのです。
前回(2020年)の大統領選では、若者たちの多くは民主党のバイデンに投票しました。おかげでバイデンが当選したわけですが、今回は若者たちの民主党離れ、すなわちバイデン離れが甚だしいのです。バイデンがイスラエル寄りだからです。
ウクライナを見捨て、イスラエル支援を強める
アメリカでは民主党にかぎらず共和党もイスラエル寄りですから、バイデンから離れた若者たちはトランプにも投票しないでしょう。ということは、このままであれば投票率は大きく下がり、民主党の得票数が激減することが予想されます。しかしトランプには熱烈なファンがいますから、共和党は票を減らさない。つまり民主党が得票を減らすことでトランプが勝つ、という見通しになりつつあるのです。
もっとも、コロラド州の最高裁判所がトランプの予備選出馬を認めない判決を下したり(2023年12月19日)、81歳というバイデンの高齢や健康状態を不安視する世論があったりしますから、展開は不透明です。
それでも、民主党に愛想をつかした若者たちが投票に行かなければ、大統領選挙でも議員選挙でも共和党が多数の票を獲得します。するとアメリカは、イスラエルには全面的な支援をするけれども、先にお話ししたようにウクライナは助けないという構造になるでしょう。
プーチンにしてみれば、思わぬ形で発生した“漁夫の利”ということになります。