「かかる」ではなく「かけている」

ただ、国や自治体では、少子化対策も兼ねて、高校や大学でかかる学費の無償化や免除に向けた政策を打ち始めている。2025年度からは多子世帯(扶養する子供が3人以上いる家庭)の大学授業料が無償になる予定だ。

「東京都は、24年度から私立も含むすべての高校の授業料について所得制限を撤廃して無償化しますし、大阪も26年度の完全無償化を目指して段階的に条件を緩和させています。公立大学の学費も、東京都や大阪府など国に先駆けて無償化の方向に進んでいます」

とはいえ、と前田さんは続ける。

「学校外活動費、つまり塾代や習い事にかかる金額は、今後も上がっていくのではないでしょうか。子供の人数が減っていくわけですから、教育産業としては子供1人当たりの単価を上げざるを得ないのです。大切な視点は、子供の教育にお金が『かかる』のではなく、あくまでも親が『かけている』のだ、ということです。特に中学受験をさせる場合、多くのご家庭が塾に通わせると思いますが、いったんレールに乗ってしまうと途中で降りることができなくなってしまう。レールに乗る前に、本当に年間数十万〜100万円という金額をかけ続けられるのかどうか、しっかりと覚悟を固めておく必要があると思います」

前田さんによれば、生活費、住宅ローン、各種保険料、老後資金の貯蓄などを考慮すると、教育費にかけることのできる金額の目安は、年収の10%までだという。世帯年収が1000万円あって子供が2人いる場合、1人当たりの教育費は年間50万円ということになる。

「いくら年収が高くても、教育費が年収の15%を超えるとやり繰りが苦しくなってしまいます。年収の高い家庭は全体的に支出が膨らむ傾向にあるので、教育にお金をかけ放題というわけにはいかないのです」

実際、前田さんの知人で世帯年収が1600万円もありながら、家計を破綻させてしまったケースがあるという。

「そのご家庭はお子さん2人を私立の中高に通わせていたのですが、大学進学時にいざ奨学金を借りようと思ったら所得制限に引っかかって借りることができず、不足分をキャッシングで賄おうとして返済不能に陥ってしまったのです。キャッシングの金利は通常10%以上ありますから(銀行融資なら3〜5%)、返済が大変に厳しい。家計がピンチに陥ったら、志望校、塾、習い事などを徹底的に見直して優先順位をつけ、順位の低いほうから切っていくしかありません」