コロナワクチン接種に絡んだ規制と、背後にある利権
規制に関連して付言すれば、日本では新型コロナウイルスのワクチン接種についても、当初は医師もしくは医師の指示の下で保健師、助産師、看護師、准看護師だけが注射を打つことができるとされた。ここでも医師会らの利権があったのでは、と思ってしまう。
のちに歯科医師、臨床検査技師、救急救命士による接種も特例承認されたが、歯科医らは当初から「私たちも社会を救うために打たせてくれ」と言い続けていた。2021年のゴールデンウィーク前に菅義偉首相(当時)は島村大参院議員(歯科医師)と会談し、注射の担い手不足を解消するため、歯科医にも許可を出すべきか話し合ったと報道されている。
歯科医だって注射を打つ技術はあるのだから、最初から担い手に含んでもよかっただろうに「筋肉注射は難しい」などと意見する(ケチをつける⁉)医者が少なからず出現し、接種は不可能だった。もっというと、元看護士でもいいだろうし、獣医師でもいいだろう。イギリスは注射を打った経験のない一般人さえ3万人規模がボランティアで接種の担い手になった。一方、日本は人件費の高い医者が打ちまくった。ここにも参入障壁があったのである。
タイで働く幼なじみの話から浮かび上がる日本の硬直性
Grabの件で明確なのは、タイは新しいものを柔軟に取り入れて合理的に取り組もうとするのに対し、日本では業界団体や受益者が合理化に反対したり、時代の変化を受け入れないどころか逆行させたりする場面が多い、ということだ。ハンコなんて、その際たるものだろう。印章業界の利権を代表し、印章制度の存続を訴える自民党の議員連盟だが、彼らがハンコの必要性を訴えるものだから、なかなかハンコ文化がなくなってくれない。
こうした細かいところに日本社会の硬直性が散見されるわけだが、タイの企業は実に柔軟性に富んでいる。先日、バンコクに暮らす小学校の同級生と会った。彼女は某世界的ビールメーカーの日本向けシステム管理の仕事に、タイ企業に所属する形で外注先として携わっているのだが、この仕事に就くまでの経緯が面白かった。
もともとはタイ現地の日系企業向けのシステム管理をやっていたのだが、あるとき追加業務を振られた。EUの某国企業のシステム管理である。その企業(ビール会社)が日本での販売提携先から契約解除されたため、受発注や在庫管理に関するシステムを失ってしまい、新たな仕組みが必要になったのだ。
そこでビール会社は、まずEUの企業にシステム構築を依頼。その依頼を受けた企業は、日本の企業でなく、タイの企業に実務を発注したのである。そこで白羽の矢が立ったのが、私の同級生だ。すでに外注先としてシステム管理の実績があり、日本語も喋れるという点が評価されたらしい。
「日本企業に頼むより費用が多少安いから、ということも理由にあるだろうけど、タイ企業に依頼するほうが工数も少なく、『会議のための会議』などもないのでプロジェクトを進捗させやすい――そうEUのクライアント企業は踏んだのでは」と彼女は考察していた。
そして彼女は、こう続けた。「日本人は英語ができないので、欧米諸国の組織がアジア圏でビジネスパートナーを選ぶにあたり、東南アジアの企業がよく選ばれるようになっている。私の場合、幸いなことに英語も日本語も話せて、タイ語もそれなりに使えるから、仕事があるのだと思う。日本人は本気で英語力を改善させないと、欧米企業からの発注を東南アジアにほとんど取られるのではないか」