郊外の富裕層が「都心回帰」している

彼らは日頃、不動産事業に携わっており、どのエリアがお買い得か、成長可能性があるか、常にウォッチできる立場にあります。彼らが売却した同エリアの戸建て住宅は現在、中古価格で5000万円前後です。横浜市のニュータウンのなかでは、価格を保っているほうですし、相鉄線の東京乗り入れによって、最近では価格がやや持ち直しているものの、下落しています。

価格変動に敏感で、他人より一足早く行動を起こした彼らから見えてくること、それは都心回帰です。

近年、郊外の住宅地に住む富裕層の多くが、東京都心部や各エリアの主要衛星都市にあるマンションに居を移す傾向が色濃くなっています。

東京
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都心の居住環境は劇的に改善された

理由は、主に3つ考えられます。1つは、都市中心部の居住環境が大幅に改善されたことです。昭和から平成初期にかけて、都心はオフィスビルが立ち並ぶオフィス街、中小の飲食店がひしめく商店街、煤煙ばいえんや悪臭が漂いトラックが行き交う工場街などで形成され、環境としても空間としても、居住に適さないところが大半でした。

ところが大都市法の改正以降、都心の容積率は大幅に引き上げられ、産業構造の変化も相俟って、工場跡地にタワマンが建設され居住できるようになりました。商店街では、市街地再開発の手法を用いて込み入った権利関係を整理、容積率のボーナスを得てタワマンを建設、居住環境の大幅な改善が実現しました。オフィス街では、中小オフィスを取り壊し、権利関係をまとめ、オフィスにマンションや商業施設を併存させる複合開発が行なわれました。

つまり、都心は「とてもじゃないが、住むところではない」から「居心地がいいところ」に激変したのです。住民を受け入れる環境が変化したこと。これが都心居住が進んだもっとも大きな理由です。

2つ目が、ニュータウンなど郊外の戸建て住宅に居を構えたオーナーたちの高齢化です。これまで気軽に乗っていた自家用車の運転がままならなくなりました。肝心のバスは本数が激減して、あらためて駅までの距離を実感するようになります。