元幹部自衛官が語った「対ゴジラ」の秘策
ゴジラが東京湾から本土へ上陸しそうだとなると、防衛最後の要、陸上自衛隊の登場である。だが、このゴジラの移動途中、首相官邸、防衛省本省、情報本部、統合幕僚監部はその対処に大わらわだ。
やはり法治国家である。まず形式的にも急ぎ、ゴジラを「有害鳥獣」に指定。猟友会が登場する。警察、海上保安庁でも対処が難しい。ゆえにゴジラを陸海空自衛隊で対処するという法的な筋道が立てられる。
こうして万が一、ゴジラが上陸した際には、主に陸自が対処。海空の各自も作戦に参加することになるというのが、かつて補給畑で活躍した元陸将補の見立てだ。
その際、どのような作戦でゴジラを殲滅するのか。元陸将補は、「俺に名案がある」と言い、作戦の腹案を明かす。
「重要なのは3点。第一、ゴジラの上陸を許さない。第二に被害を拡大させない。第三は早期に終わらせることだ」
制服を脱いでも、いまだ現役といった面持ちの元陸将補は、みずからが打ち立てた作戦の詳細を一気に語った。
「まず、空自の戦闘機にゴジラの周りを飛んでもらう。そしてゴジラの目をこちらに向ける。その間、東京湾のどこかにオイルフェンスというかな、それで急ぎ囲いを作る。中は芸能人の運動会であるような泥プールにするんだ。そこにゴジラを誘導してだな、その中に入れる。後はうちの化学科になんかいいものがあるだろう。それでゴジラを固めてしまえ――」
据え置き型の殺虫剤ではあるまいしと思いつつも、この元陸将補の話を受けて、化学作戦に従事する化学科職種の現役2等陸佐とコンタクトを取った。そして、この元陸将補の話をし、「ゴジラを固める、そんな兵器はありますか?」と問うてみた。
「想定していないこと」にどう対処すべきか
2等陸佐は、「ふふふ」と意味ありげに笑い、こう言葉を継ぐ。
「ご安心を――」
それにしても架空の問いに、元、現職を問わず自衛官や防衛事務官たちは、皆、真剣に応えてくれたが、そのなかでも、もっとも今回の問いの要となる言葉がある。
「結局、自衛隊も役所で。いざというときにデータとマニュアルがなければ、ただ警戒、監視……指をくわえて見ているだけしかない、という現実は確かだ。これは政治と法の問題だ」
振り返れば、1995年の阪神・淡路大震災、2001年の九州南西海域工作船事件(いわゆる不審船事件)など、自衛隊は「想定していないこと」で苦労を強いられた歴史がある。
阪神・淡路大震災では、被災後、現場の判断で「訓練と称して」部隊を出動させ、同時にその指揮官は、「急ぎ辞表を書き懐に入れて」、その“訓練”の指揮を執ったという。いわゆる不審船事件にしても現場では上から下まで、皆、手探りの状態での対応だった。
何者かわからない脅威は、今、すぐにでもやってくる。そうした際に、現場ならではの判断で動かざるを得ない場面もあろう。とはいえ法治国家である。ときに現場の判断が政治と法の壁を飛び越えてしまったとき、腹を括って責任を取れるリーダーは、今、わが国にいるだろうか。「もしもゴジラが攻めてきたら――」。この問いを考えるにつけ、心配になる。