もともと私は、南極越冬隊に参加したくて北大に進学しましたが、途中で「自分は地球物理学よりも生物科学系が向いている」と判断して農学部に進みました。時代的にはちょうど、日本が猛烈な経済発展を遂げる一方で、公害が社会問題化してきた頃。さらに学園紛争が全国に広がり社会全体が混沌としていました。現実に、70年にはいわゆる公害国会が開かれ、公害問題に関する法整備がなされ、71年に環境庁(現在の環境省)が設立されます。

日本においても、社会の転換点における本書の役割は大きかったのでは、と考えます。

もっとも、北大に入った私は、サッカー部に所属。ポジションは当時でいうセンターフォワードでしたが、練習に専念するあまり、実験などは友人たちに任せきりだったのです。いまでも、級友たちと集まると、「いつ勉強していた」「いつ本を読んでいた」とよく聞かれます。札幌は冬になると、グラウンドが雪一面で覆われる。本書は大学の生協で購入し、練習ができない冬場に読んだと記憶します。

あれから40年、10年10月には「COP10(生物多様性条約第10回締約国会議)」が、名古屋で開かれるのは、皆さんご存じでしょう。環境先進企業として環境相が認定する「エコ・ファースト企業」に、キリンビールは入っていて、さらに、エコ・ファースト企業で構成するエコ・ファースト推進協議会が発足し、私が初代の議長を務めます。COP10に向け、協議会として何をやろうかと、現在は検討中でもあるのです。(※雑誌掲載当時)

DDTを完全否定した『沈黙の春』はDDTのマラリアに対する有効性などをめぐり、その後の評価は2転3転していきます。しかし、21世紀の大きなテーマである生物多様性に通じる面はある。豊かな生態系、多様な自然環境と向き合いながら、企業活動に何が求められていくのか、考えさせられる1冊です。