一方、『道は生きている』では、並木道がいかに人に優しいシステムだったのかを説いています。旅といえば命がけだった昔の日本人にとって、並木は涼しい木陰をつくり、木の実を提供してくれる重要な存在でした。しかも街道筋に住む人たちは、何百年もの間、並木の世話を黙々と続けてきた。かつての日本では、人が人に、あるいは社会が人に優しかったことがよくわかります。『森は生きている』も示唆に富んでいます。人間が生きていくためにもっとも必要なのは土であり、土を大地に張り付けておいてくれるのは森林の役目です。だからこそ、森をないがしろにした文明は土を失い、滅びていった。もう一度、森や土を育てることは、人間が取り組まなくてはいけない重要な課題です。

このシリーズは、さらに『お米は生きている』『海は生きている』と続きますが、テーマは一貫しています。水と緑と土は一体であり、日本人は気の遠くなるような長い年月をかけてそれらを育み、それが日本の豊かな国づくりの大もとになってきました。こうした人間と自然のかかわりを理解したうえで、21世紀を生きる私たちは、自然とどのように付き合っていけばいいのか。このシリーズは児童書ですが、子供だけでなく、大人もぜひ深く読み、子供と一緒に語り合ってほしいと思います。

実は私が3部作に出合ったのも大人になってからです。私が入社した当時から環境対応は社内で大きなテーマになっていました。1960年代には洗剤による河川の発泡問題が起こり、当社は分解性の高いLASやAOSという新素材のソフトタイプ商品にいち早く切り替えました。70年代には富栄養化問題があり、これも日本で当社が初めて無リン化商品を開発しました。また72年からは洗剤原料を植物原料化する研究を始めるなど、会社として非常に問題意識は高かったわけです。

私自身、マーケティング部門で商品開発を担当してきたこともあり、どうすれば植物原料の割合を高められるのか、再生紙をどのように活用すべきかなど、大きな関心事でした。そんな折、たまたま書店で見かけたのが、この3部作だったのです。前述したように環境対応が大切であることは仕事を通して実践的にわかっていましたが、このシリーズを読んで、自然との共生とはこういうことなのかと、すっと腑に落ちたのです。