トルコの世論にもパレスチナを支持する声は非常に大きい。10年にトルコの人権団体などが組織した船団が、イスラエルの海上封鎖を突破してガザに支援物資を届けようとしたところイスラエル軍の襲撃に遭い、トルコ人10人が犠牲になったこともある。今回のガザ戦争は、両国関係が修復し始めたときに起きた。
イスラエルは、こうしたトルコの敏感な部分を認識しており、エルドアンがハマスの幹部を大量に受け入れたりでもしない限り、トルコ領内ではハマス関係者の暗殺は控えるとみられている。「(トルコは)軍事大国であり、NATOの加盟国であり、(対応を間違えればイスラエルにとって)大きな頭痛の種になり得る」と、イスラエルの元情報将校であるエラン・レルマンは語る。
「イランがトルコ国内でイスラエル人の殺害を計画していたとき、トルコ当局が実行を阻止したこともある。トルコとイスラエルの情報機関が、常時連絡を取り合う仕組みもある」
だが、「カタールは話が別だ」とレルマンは言う。「カタールはハマスに資金を提供していた。イスラエルが把握している以上の金額を送っていたと信じるに足る証拠がある」
カタールの二枚舌に怒り
イスラエルにとって、カタールに潜伏するハマス幹部を殺害する案は、ずっと前向きに考えやすい。何しろカタールは12年にハマスの幹部を受け入れ始め、毎年数百万ドルをガザに送金してきた。それは困窮するガザ市民を助けるだけでなく、ハマスを支援するためにも使われてきたと、イスラエル当局は考えている。
それと同時に、カタールは、これまでにイスラエル人の人質100人以上が解放される上で、欠かせない役割を果たしてきた。だが、イスラエルとアメリカの政府関係者は、カタールが平和の仲介者を演じながら、実のところハマスに手を貸しているのではないかと疑っている。
アメリカの議会では、カタールがハマスに圧力をかけて、残りの人質を解放させるべきだという声もある。「私たちはムカついている」と、最近カタールを訪問したジョニ・アーンスト上院議員は、ムハンマド外相に面と向かって言ったとされる。
ハマス幹部の追放または引き渡しに応じなければ、「NATOの加盟国ではないが、NATOの同盟国」という特別な地位をカタールから剝奪することも考えるべきだという声も、米政府内では聞かれる。
だが、カタール政府は、ハマスとの間に正式な連絡ルートがあることはプラスになると言い張っている。また、中東最大の米軍基地に土地を提供しているほか、世界第3位の天然ガス埋蔵量であることも、一定の影響力を自負する原因となっている。だが、カタール政府に対する圧力は今後も高まっていくだろう。
現時点でイスラエルは、トルコとカタールについては、アメリカに働きかけてハマスの幹部を追放するよう圧力をかけてもらい、それ以外の場所ではハマスの幹部を殺すようモサドに命令を出している。
イスラエルの元情報機関職員であるシュムエル・バーは、カギは戦後のガザの扱いだと語る。イスラエル政府がアメリカの求めに応じるなら、つまり、ガザからイスラエル軍を撤退させて、「再生した」パレスチナ自治政府に統治権を移譲するなら、より自由にハマス幹部を追及できるようになるというのだ。
「現在のイスラエルにとって一番いいのは、アメリカが提案する戦後パラダイムを完全に受け入れることだ」、とバーは言う。「そうすれば(ハマスを)完全に葬り去ることができるはずだ」