<異国の地に踏み込んでもハマスを一掃したい、ネタニヤフが直面する厄介な中東の地政学:アンチャル・ボーラ>
イスラエルの税関によって押収された密売武器
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ハマスの幹部がどこにいようと殺すようモサドに命じた――。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、記者団にそう語ったのは2023年11月下旬のこと。

パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、1100人以上のイスラエル人を殺害してから1カ月半余り。まだ多くの人質が戻らないなか、国外に散らばるハマス幹部の暗殺をイスラエルの対外情報機関モサドに命じることで、ガザ戦争が国外に広がる危険を冒してでも、報復に全力を注ぐ姿勢をネタニヤフは明確にした。

以後、イスラエル政府関係者も、より具体的な発言をするようになった。国内治安機関シンベトのロネン・バー長官は、イスラエルは「カタールとトルコにいるハマス幹部を暗殺する」と明言した。一方、ジョナサン・コンリカス元イスラエル軍報道官は、「(ハマス幹部は)全員、死刑囚も同然だ」と語った。

そして今年1月2日、レバノンの首都ベイルートでのドローン(無人機)による爆撃で、ハマスのメンバー6人が死亡した。その1人であるサレハ・アルーリ政治部門副局長は、10月に始まったイスラエルの報復攻撃で死亡した最も地位の高いハマス幹部となった。アルーリはハマスの武装部門の創設者の1人であり、イランとヒズボラに対しては大使の役割を担っていた。

ハマス幹部をどこまでも追いかけるというイスラエルの意思は明白だが、その目標の達成が容易でないことは、政府当局も承知している。

厄介な大国トルコとの関係

レバノンやシリアのように、もともと政治情勢が不安定で、あるいは戦争で荒廃した国なら、秘密工作や暗殺工作を実行するのはさほど難しくない。だが、軍事大国トルコやエネルギー大国カタール(しかもどちらもアメリカの同盟国だ)では、そうはいかない。

「これらの国との外交関係を考慮しなくてはいけない」と、イスラエルのシンクタンクであるアルマ研究教育センターの創設者サリット・ゼハビは語る。

実際、トルコ当局は1月初め、モサドの協力者と疑われる30人以上の身柄を拘束した。関係者によると、モサドはソーシャルメディアで工作員を募集し、仮想通貨で報酬を支払い、トルコにいる外国人(つまりハマスとつながっているパレスチナ人)を特定し、監視し、最終的には誘拐する任務を与えていたという。

トルコは03年に現大統領のレジェップ・タイップ・エルドアンが首相(当時)に就任して以来、一貫してハマスを外交的に支援してきた。その理由の1つとして、イスラム教徒が大多数を占める国ではイスラム教に根差した政治が行われるべきという、ムスリム同胞団の世界観を共有していることが挙げられる。