最年長部下は42歳
「開き直る」までの日々

リクルートの金蓮実さんには、9人の「年上部下」がいる。

HRカンパニー営業2部の営業部長・金蓮実さん。楽しみは年4回の旅行。日程にあわせて仕事をやり遂げるのが好きだという。

「ベースとして、目的に対して進む方向を一緒に決めた後は、How(方法論)の部分は任せるようにしています」

金さんが、そう「開き直る」までには、暗中模索の日々があった。

仕事は就職支援サイト「リクナビ」の営業職。関東エリアにある約1000社を対象に、就職を控えた学生とのマッチングの方法を提案している。

入社8年目の10年4月、営業部長に登用された。現在、50人弱の部下を率いる。このうち9人が金さんより年上で、最年長は42歳の男性だ。(※雑誌掲載当時)

同社は人材マネジメントのポリシーに、「我々は、全員成長し続ける」を掲げ、性別や国籍にかかわらず「成長チャンスを提供する」としている。だから昇進も早い。それでも先輩を部下に抱えるプレッシャーは大きかった。

目標に向かい、年上部下を上手に使いこなせるかしら――。

就任当初は、どうコミュニケーションを取ればいいかわからず、ぎこちない関係が続いた。金さんは、「おせっかいすぎるところがあるんです」と笑う。

年上部下には、長いキャリアで培ったHowがある。それはわかっているのだが、「Why やWhatは苦手だけど、Howのアイデアは無尽蔵に出てくるタイプ」だから、つい口が出てしまう。結果として、部下のモチベーションを下げることになった。

「5%業務が改善しても、30%モチベーションが下がる感じで、全体のパフォーマンスはマイナス」

手だてが見つからないまま、就任から2週間が過ぎた。週末、いつものように、自宅近くのサウナで本を読んだ。その日、手に持っていたのは、松下幸之助の名言集『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』。しばらく考え、1つの決意をした。

部下たちのもつ方法論は、チーム全体の資産である。その資産をどう活かすかを考えることが、私の仕事であり、成果をあげるために必要な方法ではないか。

「Howの領域に口を出すのをやめる。そうやって開き直ることで、すべてが楽になりました」

まずは部下の方法論を尊重する。口は出さない。ただし成果が伴わなければ、遠慮なしに指摘する。自分の昇進を快く思わない部下もいるだろう。特に先輩である年上部下に対しては、立場を弁えるという考え方もある。でも、私が遠慮をしても誰のためにもならない。部下のために、チームのために、すべきことをする――。

それ以降、いつも通りの「ストレスフリー」な自分を取り戻せた。部下たちの表情も生き生きしてきた。いま金さんはサッカーにたとえて、「観客席ではなくピッチに立って」と言い続けている。

確かに観客席からピッチを見渡せば、選手たちの動向を客観的に見られる。だが、それはあくまでも他人事にすぎない。実際にはなにができるのか。様々な制約を踏まえながら、当事者の1人として考えなければ、事業はよくならない。自発的な「個」をチームの核とする。これは欧州のトップチームが採用する戦術でもある。

年下部下は「蓮(りょん)さん」と名前で呼ぶ。年上部下からは「りょん」と呼び捨てにされている。

「おい、りょん。どうなってんだ」

「すみませんでした。これ、お願いしてもいいですか」

金さんは言う。

「あだ名で呼び合うことで、役職にとらわれないフランクな人間関係を築くことができるんです。これは全社的な風土でもあり、助かっています」

勤務中は、1分でも時間があれば部下の机を回って声をかける。

「あのお客さんとは、最近どう?」

「フットサル、やってるの?」

仕事が終わると、一緒に飲みに行く。休日には自宅にも招く。

「上司と部下という関係より、同じ仲間という意識です」

完璧な上司にはなれないかもしれない。だけど、足りないところは部下の力を借りながら、一緒に進みたい。そう思っている。

※すべて雑誌掲載当時

(市来朋久=撮影)
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