改装前の課題だった「ハード面の買い回りしにくさ」は一気に解決された。まずは、フロアの中央で動線を遮っていたエレベーターの位置を変えた。地下1階から2階にかけて店舗を構えていた銀行の支店がなくなり、過去の増床が生み出した婦人服や食品売り場の飛び地も解消された。ミナミ・なんば地区全体を盛り上げるための工夫も随所に凝らされている。増床した1階部分には東西通路が新設された。売り場にすれば確実に数字がとれる1階を通路としたのは、街全体に人が行き渡るようにするためだ。
一見、無駄に思える空間が多いのも今回の増床の特徴だ。売り場面積自体は1.4倍に増えたが、全床面積に対する売り場面積の比率は5%減った。例えば、3階、4階、5階の売り場中央にはあえて売り場を設けず、イスを配置したウエルカムゾーンを導入している。
「朝、店が開店するとまずイスに座ってのおしゃべりが始まるんですよ。さんざんしゃべってから、どこに行こうかと決めている。売り場の中にもイスを積極的に置いていますよ。夫婦で来て、旦那さんに横に座ってもらったら、奥様もゆっくり買い物ができますし、友だち同士で来ても、片方がイスに座って『それ、いいわあ』と言ってもらえる(笑)」(副店長の高山俊三氏)
ミナミの百貨店としては、時代にあった新しさだけでなく、変わらぬ「親しみやすさ」ははずせないポイントだ。
「一歩も二歩も進んだ店にしようとは思っていません。品揃えにしても環境にしても半歩進んだ提案ができる店にしていきたい。ただ、これが難しい。先を行くほうが楽ですよ」
増山がこう強調するのは、過去に痛い経験をしているからだ。10年前、同店は高い坪効率を誇っていたセーター・ブラウス売り場を「時代遅れ」と判断し、コンパクトにして場所を変更した。ブランドごとに分けるのではなく、セーターならセーター、ブラウスならブラウスというくくりで商品を集めた古典的な単品売り場の縮小に、さっそく客が反応した。
「場所を少し移しただけで、もうお客様の目に入らなくなった。『私たちの買うモノがなくなった』『若返りすぎや』とお叱りを受けました。私たちからすれば、半歩先だったんですが、お客様はそう思わなかったんですね」
ミナミの街を訪れる女性客は昔から、同じシンプルなセーターでも、ちょっとしたフリルやリボンやラメがついたものを好む。こうした客の微妙な好みや志向を把握したうえで半歩先を提案するには、現場での「経験値」を積み重ねていくしかない。問題は、肌感覚でそれができる人材が百貨店業界に圧倒的に不足していることである。
※すべて雑誌掲載当時