負けない戦い方とはどのようなものか。歴史家・作家の加来耕三さんは「戦国武将の武田信玄は、自身の失敗経験から勝ちすぎれば人は有頂天となり、平常心を失い、コツコツ積み上げる努力もしなくなるとして『五分の勝ちでいい』といった。この考え方は、時代を超えて受け継がれ、豊臣秀吉や大村益次郎も然りだった。敵を追い詰めると、死に物狂いで反撃してくる。最終的に勝ったとしても、こちらも相応の犠牲を払うことになりかねない」という――。

※本稿は、加来耕三『リーダーは「戦略」よりも「戦術」を鍛えなさい』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

金貨の山の上で逆さまになっている豚
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完勝するとメンバーの心が驕り高ぶり、組織がかえって崩壊する

大勝ちを望まず、ほどほどの勝ちでよい、という条件闘争の場面や部分的勝利を求めるビジネスの勝負もあります。

大きく勝たなくてもいいが、絶対に負けてはならない、といったシーンもあるはずです。ここだけは、と部分的に死守しなければならないような場面もあるでしょう。

だからでしょう、日本のことわざには昔から、「逃げるが勝ち」というのがあり、中国兵法にも「三十六計、逃げるにかず」(形勢が不利となったとき、あれこれと策を用いるよりも、逃げてしまうのが最良の方法である)というのがあります。

勝ちすぎない、ということでは、武田信玄の「五分の勝ち」という言葉が伝えられています。

本稿では、負けないための堅実な「戦術」や考え方を紹介していきましょう。

不敗戦術その一
五分の勝ちでよしとする

「五分は励みを生じ、七分は怠りを生じ、十分は驕りを生じる」

これは『名将言行録』に収められた武田信玄の言葉です。

五分の勝ちであれば、組織はさらに上を目指そうと励む、と信玄はいいます。

七分の勝ちは、心の緩みや怠慢を生むことを警告する必要が生じる。

そして十分の勝ち、つまり完勝するとメンバーの心が驕り高ぶり、組織がかえって崩壊する可能性が生まれるというのです。