3月に東京藝術大学大学美術館で開催される「大吉原展」がネット上で批判を集めている。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「全方位に配慮が必要な日本社会では、『アートだから許される』が通用しなくなっている。特に今回のような公的機関の催しは、槍玉に上げられ、潰されやすい」という――。

「大吉原展」炎上のきっかけ

3月26日から東京・上野の東京藝術大学大学美術館で開かれる予定の「大吉原展」が炎上している。

きっかけのひとつは、漫画家の瀧波ユカリ氏による2月5日のX(旧ツイッター)への次のポストだろう。

女性が無理やり体を売らされていたのに、あたかも楽しい場所だったかのように褒めているのではないか。それが瀧波氏の疑問と言えよう。

吉原は、現在でも多くのソープランドが軒を連ねており、その源流は、江戸時代にさかのぼる。「大吉原展」のプレスリリースにあるように、「約10万平方メートルもの広大な敷地に約250年もの長きに渡り続いた幕府公認の遊廓」だったのである。

遊郭は、公的な売春地域であり、すでに消えた場所である。この展覧会は、「現在の社会通念からは許されざる制度」との見方から始めたという。

それでも、多くの批判を受けて、2月8日、ウェブサイトに「『大吉原展』の開催につきまして」との声明を主催者側が発表した。そこでは、「遊郭『吉原』」は、「人権侵害・女性虐待にほかならず、許されない制度」だとし、「決して繰り返してはならない女性差別の負の歴史をふまえて展示してまいります」と結んでいる。

なぜ「開催前」に盛り上がるのか

瀧波氏は、ウェブサイトの文言や文脈に反応しており、この展覧会が「あまりにも『買う側』の視点に寄りすぎてはいないか?」と疑問を呈している。脳科学者の茂木健一郎氏もまた、「アートに関わる国内のトップ大学としてあり得ないお粗末さ」と指摘している。

議論は、売春をどう扱うかをめぐって交わされている。

こうした点については、遊廓専門の出版社「カストリ出版」と書店「カストリ書房」を経営し、全国各地の娼街の取材・撮影を続けている渡辺豪氏による詳しい解説がある。また、売春の歴史については、文芸評論家の小谷野敦氏の研究がある。

売春を讃美するのかしないのか。

ここでは、そういった論点よりも前に、なぜ展覧会が始まってもいないのに、これだけ議論が盛り上がるのか。それを考えたい。