最先端の知識をどう生かすのか

駅伝界と対照的なのが、日本のラグビー界だ。

20年以上、各世代のラグビーチームに携わっているトレーナーはこう話す。

「社会人はトップリーグが始まり(2003~04年シーズンから)、大きく変わりました。外国人のストレングスコーチが当たり前になっています。練習だけでなく、戦術面もグローバルスタンダードだと思いますね。一方で大学はさほど変わってないイメージです」

なぜ、大学チームは変わっていないのか。

前出のトレーナーは、「最先端の知識を持つコーチを雇う余裕がないのも理由ですが、指導者の理解もありません。自分が現役時代にやったことがないので、よくわかっていないんです。そのため、最先端の知識を効果的に使っている大学が少ない印象です」とあきれ顔だ。

トップリーグはスタッフが充実しているだけでなく、各チームに選手は45~50人ほど。でも、大学の強豪チームは部員が100人を超えることも珍しくなく、最先端のトレーニングを部員全員が行うのが難しいという面もある。しかし、一番の原因は指導者の勉強不足だろう。さらに上の意見が絶対な体育会系特有の人間関係も影響しているようだ。

「大学スポーツは体育会系色がいまだに色濃く残っています。年功序列の世界なので、監督に逆らうようなコーチや選手がほとんどいないんです」(トレーナー)

そうした古い体質の組織がある一方で、指導スタイルを大幅チェンジして大成功した競技もある。日本のスピードスケートだ。

2014年のソチ五輪はメダル0に終わったが、2018年の平昌五輪はメダル6個と大躍進している。ソチ五輪で23個のメダルを獲得したオランダからヘッドコーチ、ストレングストレーナー、メカニックなどを招聘しょうへい。科学的データに基づくトレーニングを導入して、ナショナルチームとして年間を通して強化を図った。なかでもフィジカル面での成長が大きかったという。

酒井政人『箱根駅伝は誰のものか 「国民的行事」の現在地』(平凡社新書)
酒井政人『箱根駅伝は誰のものか 「国民的行事」の現在地』(平凡社新書)

フィジカル面でいうと、冒頭のダルビッシュの言葉を思い出してほしい。日本の高校野球ではいまだに2リットルのタッパーに大量の白米を詰め込んだ弁当を食べ、体を大きくすることが「食トレ」と勘違いしている関係者は少なくない。

体重を増やしたいのか、筋肉量を増やしたいのか。言うまでもなく、筋肉を大きくするのは炭水化物ではなく、タンパク質がカギになる。トレーニングと食事(補食を含む)を見直す必要があるのだろう。

現在はさまざまな情報が簡単に入手できる時代だ。学ぼうと思えば、いくらでもトレーニングはアップデートできる。指導者だけでなく、選手も正しい知識を身につけて、効率よく、スキルアップしていくべくだろう。

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