「進言」は「アドバイス」の丁寧語ではない
× ご進言ください
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○ ご指摘ください
大学で、学生が先生に「ご進言ください」と言っているのを耳にしました。変な言い方をするなあと思っていると、なんと会社でも上司に対して、同じく「ぜひ、ご進言ください」と言う人が増えているとのことでした。
「ご進言ください」と言う人たちは、「進言」を「アドバイス」の丁寧語だと思って使っていますが、これは間違いです。
「進言」は、中国の前漢時代の歴史を書いた『漢書』(紀元82年頃に成立)に由来する言葉で、「目上の人に対して意見を申し述べること」を言います。
類語には「具申」「建言」などもありますが、こういう言葉は書面に使うべきで、会話で使う日本語ではありません。「進言」も同じです。
現代日本語で「ご進言」が使われるようになったのは、目上の人たちやお世話になった人たちにする贈り物を「御進物」と言うからです。
つまり、もともと「御進物」という言葉はあっても、「御進言」という言葉はありません。
目上の人からアドバイスをもらいたいときには、「ご教授ください」「ご指導ください」または「私に間違いがございましたら、ご指摘ください」というのが適当です。
「約束しないと会えないのか」と、むきになる人もいる
× お約束はしていらっしゃいますか?
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○ お約束はいただいておりますでしょうか?
明治時代から第二次世界大戦前までの文豪たちの日記を見ていると、散歩の途中に知り合いの家に寄ったが、相手がいなかったので、玄関に一言添えた名刺を置いてきた、なんてことがよく書かれています。
また、青山、谷中、雑司が谷などの著名人の墓に行くと、入口のところに名刺受けの石柱が立っていたりします。相手が不在でも、「自分は訪ねてきたよ」とさりげない挨拶をしていたのです。
さて、取引先の会社の近くまで来たから、社長か部長に挨拶をしようと思って受付に行くと「お約束はしていらっしゃいますか?」と言われます。おそらく、たずねた人の役職が社長や部長だったら、ムッとするのではないでしょうか。
「お約束はしていらっしゃいますか」という言葉には、なんとなく「約束がないと会えません」のようなニュアンスが感じられてしまうため、発言した人にその気がなくても、相手によっては「約束しないと会えないのか」と、むきになる人もいるかもしれません。
こんなときには、「お約束はございますか?」あるいは「お約束はいただいておりますでしょうか?」と言うようにしましょう。こう言えば、「いや、ちょっと近くまで来たから会いたいと思って」と、相手も返事をしやすくなる優しい表現になります。