仕事上の人間関係しかない人は定年後が危うい
実は、大事なのは「友達の数」ではなく「会話の数」です。
それでも、会社に所属しているうちは、本人のコミュ力にかかわらず、ポジションを与えられて、その中で「あるべき役割」を果たすことで一定量の会話が保たれていたでしょう。受け身でもその立場にいるだけで、本人の意思とは関係なく、「会話の数」は保証されていました。
しかし、定年退職して会社をやめた途端、まったく誰とも会話をしない状態になります。当然、かつて話を聞いてくれた部下はいません。仕事上で知り合った相手も、所詮仕事があるから付き合ってくれたわけで、何の見返りもなく飲みに誘ったりしてくれません。ビジネス上で作られた人間関係は、ビジネスが終わった途端に消滅してしまうものです。
それでも、まだ配偶者がいれば会話もできますが、一人暮らしだとそうもいきません。夜、眠る前に「ああ、今日は一言も声を出さなかったな」と思った人もいるでしょう。
会話がないことは、地味に精神的なストレスになります。人間は社会的な動物です。他者との会話などを通じて、意志を伝達しあうことがひとつの生きる糧となっています。一説によれば、「他人に自分の話を聞いてもらうことは性行為と同等の快感がある」と言われます。会社の上司が部下を飲みに連れ出して説教したがるのも、おじさん方がキャバクラやスナックに行って延々と武勇伝を語りたがるのもその表れだと思います。
果てはお客様相談室に迷惑電話をするクレーマーに
話を聞いてくれる相手があまりにいなさすぎると、最後の手段として企業のお客様相談室にクレームの電話をかけるようになります。お客様相談室には、クレームのフリをしながら、単に話し相手が欲しかったのだなと思う電話も多いと聞きます。
このようにして、高齢一人暮らしの男性は、日常的に「会話をしない率」が高めになります。女性の場合は31.2%ですが、男性は41.5%もあります。結局、鶏か卵かの話になりますが、相談相手もいないし、一緒に楽しみを分かち合う相手もいないから、会話の数も自動的になくなり、それが「毎日が退屈・不満」という感情になって表れるのでしょう。
高齢一人暮らしの楽しみについて、男女差を見るとそれが顕著です。女性は、「友人とのおしゃべり」や「食事や飲み会」など他者との会話を楽しいと感じて生きています。「旅行」や「買い物」も誰かと一緒に行くのでしょう。こうした日常的な「他者とのつながり」の差が、高齢一人暮らし男女の幸福格差を作っています。