「そういう情報は確度こそ高いが、喫緊の話が多い。その先となると、トップ自ら現場で拾った個々の情報を自分の中でつなぎ合わせて読み解くしかない。先を読み、布石を打って決断する経営者をめざす以上、こういう情報がなければ不安で仕方ないんですよ」

社長就任からまもない8月、とてつもなく大きな決断を下した。主力商品「マイルドセブン」の名称を「メビウス」に刷新するというのだ。国内だけで売り上げ1兆円のロングセラーだけに名称変更は大きな賭けに違いない。欧州進出に当たって、「マイルド」の表現が表示規制に引っ掛かりかねないことも変更の一因と見られる。しかし、リーマンショック後、不況に強いはずのたばこまでも大きな打撃を受け、関係者を慌てさせた。マイルドセブンを生んだ日本市場も安心はできない。

だからこそ、「母国マーケットの日本で退路を断ってでも、世界に勇躍していく決意」が必要だったのだ。

「そのためには名称変更も含むタブーなき刷新をプロジェクトチームに指示した」。これで欧州などの新市場に食い込むチャンスは広がるが、小泉が最も危惧したのは足元の日本市場にマイナスの影響を与えかねないというリスクだ。

極秘裏に事前調査を何度も重ねた結果、小泉は名称変更を決意する。

「日本で退路を断つという気合の部分と、これなら世界で売れるという経営的な手応えの両面から、メビウスで打って出ることにしたのです」

かなりのプレッシャーを感じているのではないか。

「若いときは夢を語っていればよかったのですが、職責が上がると、夢は目標になり、目標は実現すべきものという使命感に変わります。それはプレッシャーでもあります」

そう言いつつも、どこかプレッシャーを楽しんでいるようにも見える。

「いつかは次の世代にバトンタッチするときがきます。その若い世代が笑顔で仕事をしてくれる姿を想像すれば、今、やるべきことをやるのは別に悪いプレッシャーではなく、心地良い健全なプレッシャー。きれいごとではなく、心底そう思いますよ」