「性分ですね」と小泉は苦笑する。
それが答えだった。さっそくブログを更新し、「どう考えても自分の性分としてハンズオン(現場主義)でいく。みんな悪く思うな」。その端々に小泉節が滲み出ていた。
初回のブログを読んだ食品部門や医薬部門の面識のない社員から、これまでのスタイルを続けてほしいというメールがいくつも舞い込んだことも背中を押した。しかし、最大の決め手は、現場から離れたら経営判断の勘が狂うという恐怖感だった。
「現場の社員がサボるとか、そういう恐怖ではないんです。大きなジャッジメントが必要な課題であっても、元をたどれば、現場の一つ一つの小さな問題・課題が寄せ集まってできている。現場から離れたことが原因で、大きなジャッジメントに狂いを生じさせたくなかったのです」
大河といえど小さな川の合流の結果。小さな川の段階から水の流れを見守っておかねば、大河の氾濫を予期できず、対応が後手に回るというわけだ。
「問題は現場にあるし、解決策もそこにある」と小泉。「海外も含め、たくさんの工場がありますから、1カ所にせいぜい年に2回も行ければ御の字。でもまったく見てない場合と1回でも2回でも見た場合とでは、大きな差があります。1回訪ねたくらいで偉そうにと思われるかもしれませんが、それでも俺は見たいんだと正直に社員に宣言しています」
そして、現場の社員から信頼されるリーダーであるためには、「最後の責任は自分が取るという矜持が必要」とも語る。腹を切る覚悟のほどを社員にわかってもらうには、「言行一致を貫くしかない」と自分に言い聞かせている。リーダーとしてのあり方はまだ手探りと言う小泉だが、常々、自分に課していることがある。経営者として「先をきちんと読み、そのための布石をしっかり打って決断する」ことだ。
「先を読むには、お客様の声に耳を傾けることが大切。例えば、愛煙家全員の声を聞いて回ることは難しくても、お客様と日頃から接している営業担当や研究開発担当に話を聞けばいい。そういう現場には、先手を打つためのタネが落ちている。社長自らそういうタネを拾いに出かけなければ、先は読めません」
現場から報告書として集約されてあがってくる情報だけでは、先の先まで読めないと小泉は断言する。