「キャッシュレス社会」から「カードレス社会」へ

もうひとつ、デンマークが時代の変化に対応する力を持っている事例を挙げよう。

世界を先駆ける「デジタル化」である。

デンマークは、電子政府ランキングで3回連続ナンバーワン(2018年〜2022年)に選ばれ、デジタル競争力ランキングでもナンバーワン(2022年)を獲得した「デジタル化先進国」である。

私も現地で暮らしながら「デジタル化先進国」の現実を体感してきた。

デンマークでは、現金のみを持参していると、困るかもしれない。

ほとんどの客がカードかスマホで払うので、店がレジに十分な現金を用意していないこともある。基本、現金のやりとりを想定していないのだ。

こんなエピソードがある。

手元にあったお札を崩そうと思って、地元のカフェでいつものようにカフェラテを買って、お札を出した。すると、若い男性スタッフの顔がみるみる真っ赤になっていく。

どうしたのだろう? と思っていたら、どうやらお釣りに出す現金がないようだ。

慌てて「カードでも払えますよ。カードで払いましょうか?」と聞くと、ホッとした顔で「ありがとう。助かります」という返事が返ってきた。

結局、私の財布に眠っていたお札を崩すことはできなかった。

このように、デンマークは文字どおりの「キャッシュレス社会」である。大量の現金は、行き場を失って邪魔になることさえある。

さらに、近年は「キャッシュレス社会」から「カードレス社会」へ移行しつつある。

2013年には「モバイルペイ」というアプリが開発され、急速に普及し、諸々の支払いが一気にラクになった。最近では、健康保険証や運転免許証の提示といった本人確認についても、スマホのアプリで済ませられるようになった。だから、うっかり財布を忘れても、スマホがあればなんとかなるケースがほとんどだ。

古いシステムを切り捨てる大胆さ

ここまで書くと「日本でもキャッシュレスやカードレスは進んでいる」と思う人もいるかもしれない。たしかに、私も最近日本に一時帰国して、デジタル化が進んでいると感じるシーンはたくさんあった。

さらに、全国各地に多機能のコンビニがあり、日本はデンマークよりも便利で進んでいると感じる場面が無数にあった。

ただ、デンマークと日本で決定的に違うところがある。

それは、時代に合わせて前進する際に、現行のシステムを併存させるか、古いシステムをバッサリ切り捨てるか、という違いである。

日本は顧客への配慮から、新しいシステムを導入する際にも古いシステムを併存させる傾向がある。それに対して、デンマークは古いシステムをバッサリ捨てて、新しいシステムに「乗り換える」。

デンマークでは、行政からの手紙もオンラインのみで届く。目を通さなければならない書類が自宅の郵便ポストに届くことは基本的にない。おかげで、我が家は自宅の郵便ポストをチェックする習慣がなくなってしまった。

私が自宅のポストをチェックするのは、日本の方から手紙や小包を送ったという報告を受けたときだけである。

デンマーク人夫にも家のポストをチェックする頻度を尋ねてみたところ、「うーん。2カ月に1回くらいかな」とのことであった。

針貝有佳『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHP研究所)
針貝有佳『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHP研究所)

というわけで、我が家に郵便物を届けていただく際には、事前告知していただけるとありがたい。そうでないと、送っていただいた数カ月後に気がつくことになる。

もちろん、我が家は夫婦ともにズボラなので、これがデンマーク人のスタンダードだとは言わない。だが、それくらいチェックしなくても、たまにどなたかに心配をかけているのかもしれないが、不便はない。

ふと思ったが、一般のデンマーク人がどのくらいの頻度で郵便ポストを確認するのかという点は気になるところである。

どうだろうか。世界を先駆ける「デジタル化先進国」のリアルを皆さんにも感じていただけただろうか。

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