競争力の決め手は、時代の変化への対応力
では「ビジネス効率性」とは何なのか。
IMDは「ビジネス効率性」を「生産性と効率性」「労働市場」「ファイナンス」「経営プラクティス」「取り組みと価値観」という5つのカテゴリに分けている。
5つのカテゴリのなかで、デンマークがナンバーワンのカテゴリは「生産性と効率性」と「経営プラクティス」だ。また、「取り組みと価値観」が3位にランクインしている。
「生産性と効率性」(1位):1人あたりGDP、労働生産性、農業・産業・サービス業における生産性、大企業や中小企業の効率性、デジタル化など
「経営プラクティス」(1位):アジリティ(状況変化への対応力)、取締役会の機能、意思決定へのビッグデータ分析の活用、起業家精神、社会的責任、女性管理職など
「取り組みと価値観」(3位):グローバル化への積極性、ブランディング、柔軟性と適応力、経済的・社会的改革のニーズ認識、企業のDX化、社会の価値観など
デンマーク産業連盟(DI)のアラン・ソーレンセンは、こう指摘する。
「デンマークの高い国際競争力の主な理由は、状況変化に対する企業の迅速な対応力、モチベーションが高い社員、高度なDX化である」
また、デンマーク企業は、社員・社会・環境に配慮する傾向があり、そのスタイルが時代のニーズに合っている、と言い添える。さらに、ソーレンセンの指摘はこう言い換えられないだろうか。
「デンマーク人は、時代のニーズを読み取って変化する力を持っている」
デンマークがさまざまなランキングにおいてトップクラスで評価されているのは、まさに、未来を見通す「先見の明」を持っているからである。
普段はのんびりしているデンマーク人だが、じつはさりげなく準備しているし、いざ変化が起こったときの機動力は半端ない。
一緒に生活していても、デンマーク人はDIYや家庭菜園が大好きで、無人島でも生きていけるのではないかと思うほど、本当に優れた「サバイバル能力」を持っている。
変化し続ける環境を的確に把握し、自分たちが持っている知恵とリソースを最大限に使って、どんな状況でも前に進んでいこうとする。
これが「ビジネス先進国」を支えるデンマーク人の正体である。
楽しみながら変化する驚きの対応力
要するに、デンマーク人は「先見の明」がある。
デンマークが先見の明を持って時代の変化に対応しているわかりやすい証拠として、以下のようなランキングが挙げられる。
SDGs達成度 3位(2023年。発表が開始された2016年から毎年上位トップ3入り)
電子政府ランキング 1位(3回連続。2018〜2022年)
しかも、デンマーク人は「楽しんで」時代の変化を先回りしている。
その様子を体感できるのが、デンマークの首都「世界一の自転車都市」コペンハーゲンだ。
私が移住した2009年末、すでに、自転車専用道路・自転車専用信号・電車内の駐輪場など基本的な自転車インフラは整っていたが、その後の「自転車ストラテジー」による都市開発のスピード感は圧巻だった。
コペンハーゲン市は「環境に優しい街づくり」という理念のもと、CO2排出量削減のために「自転車ストラテジー」を加速させた。
次々に、自転車専用道路や駐輪場が拡充され、自転車専用の橋「スネーク」が建設され、都市と地方を結ぶ「自転車用スーパーハイウェイ」が整備されていった。
自転車専用道路を平均時速約16キロ、スムーズに走れれば時速20キロで風を切って走るのは、じつに爽快だ。
コペンハーゲンで暮らしていた5年間、私は運河のある美しい街並みを眺めながら、高速で風を切って自転車を乗り回す気持ち良さにハマっていた。いつまでも自転車に乗っていたくて、妊娠して臨月の大きなお腹になっても、そっと自転車に乗って移動していた。
それくらい「世界一の自転車都市」コペンハーゲンで自転車を乗り回すのは楽しい。
環境対策というちょっと堅苦しい課題を、市民が楽しめるワクワクする街づくりに転換してしまう。それがデンマークなのだ。