科学的データで本質を見抜けるのか

高収益の源泉を市場におけるポジションに求めるにせよ、内部の経営資源に求めるにせよ、これらの理論は、理論に基づいた仮説を科学的に検証することにより、実証・精緻化されてきた。つまり演繹法的な戦略論である。これに対し、事例を集積することによる帰納法的な戦略論がある。

それが、トム・ピーターズらの『エクセレント・カンパニー』に代表されるアンチ分析派だ。ピーターズは、数多くの優良企業を分析して8原則を提示した。その一つに「行動の重視」がある。机上の分析だけでは不十分で、「まずは実際にやってみろ」ということだ。

この流れにあるのがJ・C・コリンズの『ビジョナリーカンパニー2』やC・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』だ。コリンズは『ビジョナリーカンパニー2』で、優良企業へと変貌を遂げた企業と競合他社を比較、分析して、その共通項を導き出した。同書は、アンチ分析派の代表作となった。

2010年には『ビジョナリーカンパニー3』が出たが、ここでは、かつて取り上げた偉大な企業が衰退した姿を分析することで、経営戦略上の問題点を抽出している。クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』は、「偉大な企業はすべてを正しく行うがゆえに失敗する」として、大企業に必ず訪れるこの「ジレンマ」を解き明かした。

優れた経営者の内面に入り込むことで、経営とは何かを解き明かそうとする研究もある。ノエル・ティシーの『ジャック・ウェルチのGE革命』は、「20世紀を代表する偉大な経営者」と称されるGEのジャック・ウェルチ会長(当時)が、いかに同社を優れた会社に導いていったかを描いている。L・ケイニーの『スティーブ・ジョブズの流儀』は、現代のカリスマの情熱に触れられる一冊だ。

分析派は、経営はサイエンス(分析)であるという基本的な考え方を持っているが、アンチ分析派は、経営はアート(直観)だとする姿勢だ。『MBAが会社を滅ぼす』のヘンリー・ミンツバーグもその1人である。マネジメントはサイエンスだけではなく、アートやクラフト(経験)を加味してバランスのとれたものでなければならないと主張する。分析のツールを用いて直観や経験を凌駕しようするMBA教育に対し、非常に批判的だ。

サイエンスかアートか?/経営戦略論はサイエンスとアートの間を行き来しつつ、いまは現場における「実践知」や他者との相互作用のあり方に流れが向かっている。

ミンツバーグの指摘は重要だ。同じ科学的データを見せても、人によって解釈が異なる。個々の洞察力に差があるからだ。人間は常に活動している。顧客の視点に立ち、顧客とともに汗をかいている。考え方も一様ではない。その現実や経験を無視して静的に分析したところで、果たして現実を、本質を見抜けるのか。それは不可能である以上、直観や経験も重視すべきだろう。