世界の「流れ」の中でどう未来を創るか

ワイガヤの効用は最近、科学的に証明された。先に述べたミラー・ニューロンである。共振、共鳴が成立すると、相手の動きがまるで鏡に映った自分のように自分の動きとして感じられ、相手の意図までわかる。それはミラー・ニューロンが作用しているからだ。

こうした発想は、経済学をベースにした分析派や資源ベースの経営戦略論からは生まれてこない。経済学ベースの企業論は、経営資源という「モノ」がベースになるからだ。当然、人間も人材や労働力というモノ扱いである。これでは共振や共鳴は起こらない。

リーマン・ショック以降、このように人間をモノ扱いするゆきすぎた資本主義への反省が、様々な形で論じられるようになってきた。戦略論もまた、こうした反省から、社会や共同体を意識した新たなステージへと移っている。

日本では、ハーバード大学教授のマイケル・サンデルの著書『これから正義の話をしよう』がベストセラーになっている。戦略論の本ではないが、これから戦略を考えるうえでは無視できないだろう。サンデルはコミュニタリアン(共同体主義)の立場で、個とコミュニティは両立すべきだと「公共善」を説く。その対極が、個がそれぞれの利益を最大化していくリバタリアン(新自由主義)であり、それが行き着いた先がリーマン・ショックなのである。

いま、戦略論の流れに大きな変化が起きている。私は、それは「総合」ではないかと考えている。分析派、アンチ分析派の戦略論が、ひとつの流れに向かってどんどん近づいているのである。『流れを経営する』では、そうした影響を受け、これからの知識社会で持続的優位を構築するために「実践知」を基盤とする動態理論を展開した。ギリシャ哲学、現象学、認知科学、心理学などを統合して、人間の主観と実践を中心とする経営理論を提示した。人間が主役の経営論、戦略論である。

世界経済が相互に密接に関連し合ういま、企業も孤立した存在としてではなく、世界の一部として流れの中にあり、世界を形づくっている。他者と関わり合いながら、どのような未来をつくっていくのか、それを考えることが現在求められる戦略論であろう。

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戦略論の流れを一望すると…/60年代、70年代にもチャンドラー、アンドリュースによる理論モデルがあったが、初めて体系的な戦略論が提示されるのは80年、ポーターの登場による。このほか、ゲーム理論などの流れもある。