1935年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。クレアモント大学ドラッカースクール名誉スカラー。カリフォルニア大学(バークレー校)経営大学院ゼロックス知識学特別名誉教授。2008年の「ウォール・ストリート・ジャーナル」誌において、「最も影響力のあるビジネス思想家トップ20」に選ばれている。
戦略の理論モデルを理解するためには、理論そのものの考え方だけでなく、潮流の中での位置づけと関係性を、まずは押さえるべきだ。世界的権威による誌上講座をお届けしよう。
一口に経営戦略論といっても一様ではない。時代背景や社会環境により、あるいは研究者の考え方や信念などが強く反映されることで、今日までに多様な理論モデルが提起されてきた。これまでのところ、その主流は経済学をベースにした戦略理論である。その代表がマイケル・ポーターだ。
ポーターは『競争の戦略』で、企業間で競争が起こる理由として、「新規参入の脅威」「既存の競合企業同士の争い」など5つの要因を定義し、これらの競争をより有利に戦うために、3つの基本戦略を示した。「コスト優位」「差別化」「集中戦略」である。「新規参入の脅威」にはコストの優位性や製品の差別化などで参入障壁を設け、「既存の競合企業同士の争い」では、製品やブランド、サービスで差別化を促す。こうした戦略により有利なポジションを築き、防衛することができた企業が、高収益を上げる。いわゆるポジショニング論である。
経済学ベースの戦略論のもう一つの代表として挙げられるのが、経営資源(リソース)に基づく資源ベース論である。市場での厳しい競争を勝ち抜くには、人材やブランド力、専門能力など、企業内にある経営資源を活用すべきとするのが、『企業戦略論』のジェイ・バーニーだ。企業同士が利益を削って激しく争うなかで、高収益の企業があるのは、その企業が持つ経営資源が優れているからという考え方である。
また、他社には真似できないような中核能力(コア・コンピタンス)こそが重要とするのが、『コア・コンピタンス経営』のゲイリー・ハメルとC・K・プラハラードである。そうした中核能力を様々な製品や事業分野に応用することで、自分たちが勝てる市場をつくり出すことができる。それにより、高収益がもたらされるという考え方だ。