私も上場会社の役員を3社で務めていますが、投資家に対する責任を果たすのは大変な作業です。いまは四半期開示制度が導入され、四半期ごとの決算報告が義務付けられていますから、その手間だけでも相当なエネルギーを要します。監査法人には微に入り細を穿ち指摘されるし、SESC(証券取引等監視委員会)や上場している証券取引所の規制もある。早ければ15年から日本企業にもIFRS(国際会計基準)が適用されて、会計基準は厳しくなる一方です。

上場に関わるそうした金銭的、人的、精神的負担は経営を圧迫します。経営のフリーハンドを高めるという以前に、とにかく上場のくびきから逃れることを第一義に上場廃止を考える経営者も少なくないのではないでしょうか。

知名度や信用度のアップ、資金調達手段の多様化など、上場のメリットと言われる部分についても、会社の規模がある程度まで大きくなれば薄れてきます。上場によって投資家から資金を集めなくても社債は発行できるし、銀行も低利でお金を貸してくれる。

カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)や幻冬舎ぐらい名前が売れていれば、上場、非上場で信用度が上がり下がりするということはほとんどありません。それにCCCの場合、一番の大株主は増田宗昭社長で、発行済み株式の40%近い株を所有しています。

上場していようがいまいが、実質的に増田社長が会社を支配している構図に変わりはない。であるなら、上場している意味はそれほどないと判断したように感じられます。

またCCCの損益計算書を見ると、10年度第3四半期までの連結の売り上げは、前年同期の1460億円から1263億円に落ちている。よく解釈すれば、上場廃止によって思い切った手が打てる。悪く解釈すれば、売り上げが落ちたことを投資家から突かれたくないから上場廃止にしたという見方もできるでしょう。

小宮コンサルタンツ代表取締役
小宮一慶氏

私が非常勤パートナーをしている投資ファンドでも、投資家から集めた資金や銀行から借りたお金を使ってMBOを実施し、これまでに5社を買って、2社を上場廃止にしました。理由は個人投資家や少数株主に口を出してもらいたくないからです。私たちのファンドは敵対的買収はしませんし、半年単位で手放したりしません。買った会社は5年くらい保有して、その間に経営力を高めて企業価値が上がればいいと考えています。

上場は経営者にとっても株主にとっても一つの目標です。しかし、その先に上場を維持して資金調達をするつもりがないなら、あるいは自分たちでキャッシュを十分に稼げるのなら、上場しておく必要は必ずしもない。

上場を維持するべきか、上場廃止にするべきか、会社オーナーの方から相談を受けることがときどきあります。一度上場して創業者利益を得ているなら、上場にこだわる必要もありません。

「上場による資金調達で成長を目指すなら別ですが、そうではないならやめてもいいんじゃないですか」とアドバイスをしています。

※すべて雑誌掲載当時

小宮コンサルタンツ代表取締役 小宮一慶(こみや・かずよし)
1957年、大阪府生まれ。81年京都大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。岡本アソシエイツなどを経て、96年小宮コンサルタンツ設立。『数字で考える習慣をもちなさい』『「1秒!」で財務諸表を読む方法』など著書多数。
(構成=小川 剛 撮影=市来朋久)
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