新日本製鉄と住友金属工業が、2012年10月の合併を目指している。この7月には経済産業省に対して、商法上の手続きの簡素化などで事業再構築を後押しする産業活力再生法の適用を申請した。
M&A(買収・合併)を、かつて会計の世界では「会社同士の結婚」と呼んでいた。A社とB社という2つの会社が、男女の結婚と同じように、一つの家族(=生活単位)になることをイメージしていたからだ。しかし、それも様変わりしている。
M&Aに関する会計処理には「持分プーリング法」と「パーチェス法」がある。
前者の「プーリング」は英語で「維持」を意味する。会社同士の合併が対等な立場で行われることを前提にした会計処理で、貸倒引当金や減価償却累計額など、それぞれの総勘定元帳の数字を維持し、横滑りさせる形で合体させる。A社とB社の純資産がそれぞれ100億円なら、基本的には合併後のC社の純資産は200億円になる。
一方、後者の「パーチェス」は「買う」という意味だ。対等という関係を重視するというよりは、買う側(取得企業)と買われる側(被取得企業)を明確に分ける。現行の「企業結合に関する会計基準」では基本的にパーチェス法が採用される。合併などの企業結合取引に際しては、ともかくどちらが取得企業かを決める必要があるということだ。たいていの場合M&Aの実態は、一方の会社が他方の会社を取得する経済取引であろう、とする考え方が背景にある。
被取得企業の純資産が100億円しかないのに、120億円で買収されたとすると、その差額の20億円がプレミアムであり、いわゆる「のれん代」に相当する。パーチェス法では、こののれん代を20年以内に適切な期間で減価償却していく。
ここで問題なのが、前回の当連載で述べた包括利益でも見た国際会計基準(IFRS)との兼ね合いだ。IFRSではのれん代を償却しない資産と見なす。貸借対照表(B/S)上の固定資産には組み込むものの、規則的な償却は行わない。
そして、将来回収できそうなキャッシュフローが固定資産の額を下回りそうなときに、帳簿上の資産価額が「過大評価されている」とみなし、キャッシュの回収可能額と原価の差額が減損処理の対象となる。また減損処理が行われたときに限って、損益計算書上(P/L)の費用となる。
先の現行の日本基準でいくのなら、資産としての「のれん代」が生じた場合、合併後の“新生・新日鉄”の利益が毎期ののれん代の償却で、規則的に押し下げられていくことも考えられる。
とはいえ、M&Aの魅力は大きい。その代表が、潜在能力がありながら儲かっていない会社を買収するパターンだ。
ダイヤモンドの原石も磨いてこそ価値が出る。高度な技術を持っていながら、マネジメントが弱くて輝きの鈍い会社は意外と多い。儲かっていない分だけ株価も安く、多少のれん代を上乗せしても、買収後に効率のよいマネジメントに変えれば、本来のダイヤとしての輝きを得て、取得企業は大きなリターンを手にできる。
また、M&Aには純資産の額よりも安い金額で買収する「バーゲンパーチェス」が起きる場合もある。純資産が100億円の会社でも株式の時価総額が80億円なら、純資産額を20億円も下回る金額で買収できる。会社の価値より株価が安いことは、市場がその会社の収益力を低く評価しているといえよう。
翻ってみると、日本の株式市場では、1株当たりの純資産に対する株価の倍率を示した株価純資産倍率(PBR)が1倍を切る上場企業が続出している。つまり、かなりの低水準にあるわけで、バーゲンパーチェスしやすい市場といえそうだ。