ジャニーさんがパンツまで洗ってくれた
「ジャニー喜多川氏の寵愛を得ていたおれは、雑用係でしかないボーヤの身だったがいつも大事にされていた。普通ボーヤがタレントの下着を洗うのがその頃の芸能界・音楽界の常識だったので、おれもタレントの下着洗いはよくやったものだったが、おれ自身の下着は自分で洗うことは滅多になかった。なぜならジャニーさんがおれのパンツまで洗ってくれたからだ。
『コーちゃんー、お風呂に入ろう』
ジャニーさんの誘いで二人一緒にいるときはたいてい湯ぶねに共に入る。きゃしゃなおれのからだをジャニーさんがすみずみまで丹念に洗ってくれるのだ。
それはきっと他人が見れば愛しあう男と女の光景となんら変わることはなかっただろう。
温かくなったからだをジャニー喜多川さんがタオルでふき、おれのくちびるにキスをする。このあとはふとんのなかで互いのからだを求めあうのだ。
どんなに男同士の愛の行為を繰り返してもおれは同性愛者にはなれなかった。ジャニーさんにからだをまかせるのも、芸能界でデビューして必ずアイドルになってやるんだという目的のためだった。」
「これまで誰にも言ったことがなかった」
北公次が2人の関係を「夫婦だった」と言った意味がよくわかった。
喧嘩ばかりしているよその夫婦よりもよほど愛情深い“夫婦”だった。
浅草ビューホテルの一室で告白を終えたときには、すでに窓の外は漆黒が支配していた。
話し終わったとき、北公次は放心状態になっていた。
部屋を満たすものは沈黙だけだった。
「今、しゃべったことはこれまで誰にも言ったことがなかった。本当に今日がはじめてだよ」
回想が終了すると私たちはロビーに下りていった。
サングラスをかけた北公次は、腕時計の並ぶショーウインドーに立ちすくんだ。
ホテルの宿泊客が通り過ぎていく。
バンダナを巻いた元アイドルは飽きることなくウインドーを見つづけていた。