成功を収めた「匿名宝飾店」
瀧口氏は、「外資系ブランドしか要らないという方たちに向かっても、私たちは新たな試みをしてゆきたい」と話す。
「これから大胆な仕掛けをして、みなさんに、よりご覧いただける機会をつくっていきたい。当然、インスタグラマーをはじめ、SNSのインフルエンサーの方たちとも手を取り合って、4℃の商品をしっかり見てもらって、PRだけでなく、評価や批評もしっかりしていただくことを継続していきます」
「大胆な仕掛け」の一つは、9月にSNSで多くの話題を集めた「匿名宝飾店(ネームレス・ジュエリー・ショップ)」である。東京・原宿にあるキャットストリートの愛称で知られるファッションのメッカに、4℃がブランド名を伏せて開いた期間限定の店舗で、突如お目見えした正体不明のジュエリーショップとして評判を呼んだ。9月8~24日の開店期間中は入場整理券を配付するほどの盛況を収め、公式発表で累計来場者数は5500人にのぼった。
ブランド名を明かさぬままオープンした「匿名宝飾店」は、9月20日になって、4℃の期間限定ショップであることを公にした。瀧口氏は、「4℃は昨年50周年を迎え、多くの方に新たにブランド名を知っていただくことができました。そのいまだからこそ、蓄積されたイメージを離れ、あらためて原点に返って、当社のジュエリーそのものを見てもらいたいとの思いがあった」と企画意図を語った。
商品を見れば必ずそのよさが伝わる
期間中、後半の週末、「匿名宝飾店」に赴くと、入場整理券が配られながら、2時間半待ちの札止めという活況を呈していた。
道行く若い男女2人連れが店の前で足をとめている。
「トクメイ……宝飾店? なにこれ」
「ヨンドシーの店らしいよ」
「え、そうなの。中、見たくね?」
店の入口の前にキッチンカースタイルで設けられたカフェに惹かれ、顔を寄せ合って話す若い女性2人。
「宝石のお店? どこのブランドだろ?」
「あそこのカフェも、よさそうじゃん」
「ほんとだ。アイスラテとか飲みたいね。入ってみようよ」
SNSの評判や旧来のブランドイメージにとらわれることなく、目の前にある4℃のジュエリーをありのままに見てほしい。商品を見れば必ずそのよさが伝わる――。逆風にさらされても商品価値を磨くことを重視してきた4℃が満を持して実現させた試みであった。来場者アンケートでは83%が「4℃のイメージが変わった」、78%が「正体は意外だった」と回答している。SNSにも好意的な声があふれた。