男性客に支持されて成長を続けてきた

瀧口氏と同年代である私にも、若い女性がカルティエのトリニティ(3連リングの指輪)やティファニーのオープンハートのネックレスをこぞって身につけていた姿が印象に残る。

さらに印象としてあるのは、それらを自ら購入したのではなく、近しい男性からプレゼントされたものであるということが女性たちの自尊心を満たしていた眩しくも泡沫うたかためいた時代の様相のような風潮である。贈り、贈られることで、シンボリックなステイタスを互いに高め合うことになっていた。

20万円を超えるようなカルティエ・トリニティは珍しくなかった。

瀧口氏はつづける。

「大手外資系ブランドが1万5000円ほどからもラインナップされていて、われわれ4℃も同様に手の届きやすい価格の商品をそろえていました。お客さまの認知度も上がりましたし、安心感のあるジュエリーとしてブランド価値を築くことにもなっていったと思います」

瀧口社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
ジュエリー事業を担うエフ・ディ・シィ・プロダクツ社長の瀧口昭弘氏。

ヨンドシーHD社長の増田氏も同様に当時を振り返る。

「アパレル事業も手がけていますが、とくにジュエリー事業についてはお客さまの男性比率が女性よりも高いという特徴がありました」

海外ブランドとは異なる「手の届きやすいブランド」

瀧口氏は、「ジュエリー・マーケットというのは、どちらかといえばミクロ市場だったんです」とも語る。

「1990年ごろのジュエリー市場が国内で3兆円ほどでした。それが近年は1兆円前後の横ばいで推移していると推計されています」

アパレル業界は、ユニクロに代表されるファストファッションの隆盛もあって、拡大のピークであった1990年ごろと比べ、金額ベースで3分の2から半分程度に縮小している。

瀧口氏がつづける。

「ただし、ジュエリーというのは不思議なところがあって、アパレルのように市場が激減することには必ずしもなりません。景気に左右されながらも、国内の宝飾市場全体では、だいたい単価30万円以上の商品――有名百貨店の5階、6階の高級宝飾サロンで売られているような価格帯のもの――は、堅調に支持されています。資産価値で1000万円を超えるようなインターナショナルの高額ブティック市場は盛んです」

カルティエやブルガリ、ティファニーの商品がそうした超価格帯のジュエリーとして想起されよう。

4℃のショップは、「手の届きやすいブランド」として、そうした海外の高級ジュエリーとは別にカテゴライズされている。

「百貨店やファッションビルの1階などで、2万円から10万円くらいの、もう少しカジュアルな価格帯の商品ラインに重点を置いています。もともと男性のお客さまの支持が大きく、ギフトに強いという特徴を持続させつつ、ジュエリーのデザインの鮮度をより高める努力をしてきました。流行を追い過ぎず、同時に需要に見合う洗練されたデザインのジュエリーをつくり上げることを経営の大きな政策としています」(瀧口氏)