かつて大学駅伝界で関西勢はしばしば上位に食い込む実力があったが、現在はその存在感が薄くなっている。きたる正月の第100回箱根駅伝出場を目指した予選会でも惨敗。スポーツライターの酒井政人さんは「関西勢がすべきことは有力な選手が進学する関東勢の尻を追いかけることではない。“関西の雄”と呼ばれる大学が再び現れることを期待したい」という――。

箱根駅伝予選会で露呈した関西勢の“真の実力”

2023年のプロ野球のキーワードは「関西」だった。阪神とオリックスによる関西ダービーとなった日本シリーズは地元のみならず、全国の野球ファンが盛り上がった。

スポーツ報道では「関西の雄」という表現をされることがある。しかし学生長距離界、とりわけ大学駅伝の世界において、現在そのような存在は見当たらない。

筆者は以前、箱根駅伝を走ったことがある(1996年、東京農業大)。その経験から言えるのは1990年代後半の関西勢はとても強かったことだ。特に京都産業大は1996年の全日本大学駅伝で3位に入るなど、出雲や全日本でたびたび上位に食い込んだ。もし、箱根駅伝の予選会に出場できたとしたら十分に突破できる実力はあったと思う。

しかし、全日本大学駅伝の入賞(2015年までは6位、16年以降は8位)は京産大が1999年に5位に入ったのが、地方勢にとって最後。近年は全日本大学駅伝で関東勢が上位を占めるのが当たり前で、関西勢の存在感は薄れつつある。

そして今秋、関西勢の“真の実力”が明らかになった。それが箱根駅伝予選会だ。

2024年の正月に開催される第100回記念大会は出場校が「3」増枠して、参加資格も「関東学連登録者」から「日本学連登録者」に拡大された。関東ローカルの大会である箱根駅伝が今回に限り、全国の大学に門戸を開いたのだ。

そして10月14日の予選会には地方から11校が参戦(出場数は史上最多の57大学)。関西からは京産大、立命館大、大阪経済大、放送大学関西の4校が参加した。

箱根と並ぶ大学3大駅伝である出雲駅伝(毎年10月)に20回、同じく全日本大学駅伝(毎秋)に34回の出場を誇る立命大の田中裕介コーチは、「全員がバチッと走ることが大前提だが、13校なら狙えないことはない」と手応えを語っていた。しかし、想像以上に厳しい現実が待ち構えていた。

【図表】2023箱根駅伝予選会 チーム成績
図表作成=プレジデントオンライン編集部

地方勢の最高位は京産大の27位(10時間54分22秒)で、次が立命大の34位(11時間05分23秒)。個人成績では小嶋郁依斗(京産大3)の46位(1時間03分07秒)が最高だった。なお今回の予選通過ラインは10時間39分47秒。京産大ですら14分35秒も引き離された。1人あたりでいうと、ハーフマラソンで1分27秒もの開きがあった。

この結果に、「関東と関西でこんなに実力差があること」にやはりそうかと納得する向きもいるだろうが、逆に、そんなに差があるのかと驚いた方もいるだろう。

例年、出雲駅伝と全日本大学駅伝は関東勢が上位を占めているが、関東学連の出場枠は出雲駅伝が「10」、全日本大学駅伝は最大「15」(シード枠8、基本枠1、成績枠6)。そのため地方大学といえども出雲は11位、全日本は16位に入ることもできるはずだ。

ところが実際は、箱根予選会で京産大(27位)と立命大(34位)の付近にいたチームは、芝浦工業大、明治学院大、流通経済大、桜美林大、東京経済大、武蔵野学院大、立正大、育英大という出雲や全日本に一度も出場していない大学がいた。

箱根予選会には前回の本大会で10位以内に入ったシード校が出場しないため、単純に計算すれば地方勢トップの京産大ですら全体の“37番目”となる。予選通過も可能と語っていた立命大は実質44位となる。「打倒・関東」を掲げている地方大学にはショッキングな結果だったといえるだろう。

今回、地方大学は本選出場のボーダー争いにまったく絡むことはできなかったにもかかわらず、予選会に初参戦した地方大学は「出てよかった」という雰囲気だった。立命大・田中コーチも「今後、(箱根駅伝の)全国化があればチャレンジしたい」と話していた。かつての強い関西を肌で知っている筆者としては、その「出てよかった」感にいささかガッカリさせられた。