まるでアリ地獄のように落ちていく

ブラックホールになんらかの理由で落ちてしまった可哀想な人を、観察する第三者の目線で見ていきましょう。

ここでは、「そもそもブラックホールまでどうやって行くつもりだ?」とか「呼吸するための酸素はどうやって確保するつもりだ?」といったことは考えないことにします。

まず、人はブラックホールの影響を受ける時空に到達すると、強い重力を持ったブラックホールの中心に引き付けられるように、落下をはじめます。アリ地獄をイメージするとわかりやすいかもしれません。このとき人がただようのは「降着円盤」といわれる、ブラックホールに落ちたガスなどが、土星の輪のようにブラックホールのまわりを囲った円盤です。

そのうち、ブラックホールの「最内縁安定円軌道」(シュバルツシルト半径の3倍の球面にあたるところ)という地点に行き着きます。「最内縁安定円軌道」とは、「降着円盤」の最も内側にあたる部分であり、物質がブラックホールのまわりを安定感を持って回転することができる、最も内側の軌道になります。

これより内側に入ると、安定感を失い、すべての自由落下する物体は、ブラックホールに向かって落ちていくことになります。

そのうちに、ブラックホールの表面ともいえる「事象の地平面」に近づいていきます。「事象の地平面」に近づくほど、遠くに離れた我々からは、時間の流れがゆっくりになるため、この可哀そうな人が「事象の地平面」を通過するのを見届けようと思うと、無限の時間が必要となります。

しかしながら、ブラックホールに落ちた人目線で見ると、「事象の地平面」を通過するからといって何か特別に時間の流れや空間的な異常を感じることはありません。有限の時間でブラックホール内部に入り込むことができてしまいます。

私たちの日常的な感覚からは理解しにくいかもしれませんが、通過する人、それを観察する人とでは、立場によって時間の進み方が変化してしまうので、このような違いが生まれます。

ブラックホールに落ちたら人はどうなるのか

中心に近づけば近づくほど、全身で見たときにつま先にかかる重力の方が、頭に加わる重力に比べて圧倒的に大きくなっていきます。このような力の差を“潮汐力(*)”といい、太陽質量の恒星質量ブラックホールの場合、落ちていく人には約10億Gにも及ぶ潮汐力がかかるといわれます。

*潮汐力とは?:ある物体に働く重力の大きさが、その物体の各点において異なる場合、その力の差(潮汐力)によって物体を引き裂いたり、ゆがめたりする作用が働く。
水をつかむ人の手
写真=iStock.com/nemchinowa
※写真はイメージです

残酷な結果ですが、体はこの潮汐力によって細く引き伸ばされ、ブラックホールに到達する前にバラバラにされてしまうと想像できます。ブラックホールの質量が大きい場合(超大質量ブラックホールの場合)には、半径が大きい分、かかる潮汐力が1G未満に抑えられるため、意外なことに、なんの影響も受けないままブラックホール内部にまで到達することができるでしょう。

さて、ではこの可哀想な人がブラックホールの内部に入れたとしましょう。このとき、落下している人の速度は光速の約95%にも達します。自由落下する時間はブラックホールの質量に比例し、太陽質量の恒星質量ブラックホールに落ちた場合、中心地まで落下するのに約0.000001秒しかかかりません。

この場合も、脱出する手だてはないので、ブラックホールの中心に到達するどこかで、結局は五体バラバラになってしまうと想像されます。どちらにしろ、ブラックホールに入ったが最後、一瞬のうちに全身をバラバラにされてしまう以外の道は今のところないわけです。

ただ、この様子は光さえ脱出できない場での出来事なので、観察者はよくも悪くも、その様子を見ることはないでしょう。

最後に、ブラックホールの中心には「特異点」と呼ばれる点が待ち受けています。特異点は、時空の曲がり具合を表す量が無限大となり、物理法則が破綻する点です。現在の物理学の理論では、特異点付近の近くで何が起こるのかは誰も予測できません。

これを可能にするには現時点では完成していない新たな理論が必要だと考えられています。

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