ブラックホールに人が落ちるとどうなってしまうのでしょう。高頻度でこの質問をされるという、宇宙物理学の研究者・武田紘樹さんは「ブラックホールは、フィクションの世界のもので実際の宇宙にはないんでしょ? と思っている人もいるようです。しかし、ブラックホールはさまざまな観測から、はっきりと存在が確認されている天体の一種。ブラックホールのまわりはあまりにも空間が大きく歪んでいるために、一度ブラックホールに入り込んでしまうと、光すらも抜け出すことはできないのです」といいます――。

ブラックホールはフィクション?

「宇宙物理学の研究をしている」と伝えると、高頻度でぶつけられる質問の一つが「ブラックホールに落ちたら人はどうなりますか?」というものです。非常に純粋で単純な質問ですが、ブラックホールが作り出す時空の性質を理解する上で良い教材になります。そこで、「ブラックホールに落ちてしまう人」というどこか悲しい題材を頼りに、ブラックホールとは何かを見ていくことにしましょう。

ブラックホールのイメージ
写真=iStock.com/gremlin
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月や太陽などと比べて日常生活における身近さは皆無ながら、なぜか「ブラックホール」という言葉自体は聞いたことのある人が多いです。恐らくSF映画や漫画、アニメなどの作品を通じて知ったのだと思いますが、だからこそか「ブラックホールは、フィクションの世界のもので実際の宇宙にはないんでしょ?」と思っている人もいるようです。

しかし、ブラックホールはX線や重力波などの様々な観測によって、はっきりと存在が確認されている天体の一種。小さなスペースに物質が極限まで押し込まれた高密度な天体です。ブラックホールは宇宙に1個だけあるものだと思っている方もいるようですが、銀河系には約1億のブラックホールがあるといわれています。その中で、存在を確認されているのは約60個です。

またブラックホールには大きく分けて、太陽と質量が同程度のブラックホール(恒星質量ブラックホール)と、太陽の数百万倍から100億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールがあることが確認されています。

重力とは時空の歪み。大きく時空が歪むと…

ドイツの物理学者アインシュタインは、1915年に発表した「一般相対性理論」で、重力とは時空の歪みだと表現しています(時空=時間と空間を合わせたもの)。

時空に天体が生まれることで、そのまわりの時空が歪みます。時空が歪むことで、その天体は重力を発生させます。ブラックホールはぎゅうぎゅうと高密度な天体になった結果、時空を大きく歪ませ、強大な重力を発生させています。

このブラックホールのまわりはあまりにも空間が大きくゆがんでいるために、一度ブラックホールに入り込んでしまうと、光すらも抜け出せません。この光が抜け出せるか、抜け出せないかのギリギリの境界線(ブラックホールの表面といえるところ)を「事象の地平面」といいます。

補足情報:ブラックホールはどれほど高密度か?
太陽と同程度の質量の恒星質量ブラックホールを考えてみましょう。太陽の半径約69万6000kmに対して、ブラックホールのシュバルツシルト半径はおよそ3km(ちなみに地球程度の質量の場合は約9mm)です。したがって、太陽と同程度の質量のブラックホールが存在するためには、わずか3kmという小さい領域に太陽と同程度の質量の約2×1030kgが閉じ込められた超高密度になっている必要がある……ということから、ブラックホールがいかに高密度な天体かが分かるかと思います。