「ストレス」と「ストレッサー」の決定的な違い

十数年前の一時期、内閣府が「お父さん 眠れてる?」というポスターを制作して、眠れないのはうつの兆候だから、不眠症状が出たらなるべく早く医者に診てもらいましょうというキャンペーンを行いました。

これは、うつ病を悪化させるリスクを減らし、自殺を予防しようという目的からです。結果的にそれが功を奏し、10年連続で自殺者が減少しました。およそ3万5000人もいた自殺者が2万人ぐらいにまで減った。やはり早めの治療は非常に効果があるんです。

だから、ストレスチェックだって、医師の面接指導が必要と評価されたら「そんな大げさなことしなくても」なんて思わず、積極的に治療を受けてほしいと思います。

ただ、ストレスという言葉にはいろいろな誤解があります。一つ理解してほしいのは、「ストレス」というものと「ストレッサー」とは違うということです。

たとえば職場にいやな上司がいるとか、仕事のプレッシャーに耐えられそうもないとかいう場合、上司や仕事は、あくまでストレスの原因となる「ストレッサー」にすぎません。

ストレスというのは、たとえばその上司をどう感じるかによって生じるものです。別の人にとっては、大して気にもならない平凡な上司かもしれません。それを脳がストレッサーと捉えることによって生じる心の歪みが「ストレス」と呼ばれるものなんです。

だから、モノの見方が楽観的な人にはどうということもないのに、自分自身をすごく責めてしまう人だとか、あるいは完全主義の傾向がある人はプレッシャーを感じ、同じようなことがその人にはストレッサーとなってストレスを感じてしまう場合があります。

モノの見方を変えると生き方がずっと楽になる

ほとんどの場合、ストレスというものは脳の情報処理のミスで起こります。言い換えればストレスの9割は脳の錯覚です。

くわしくは私の『ストレスの9割は「脳の錯覚」』(青春新書)という本をご覧いただきたいのですが、簡単に言ってしまえば、モノの見方を変えると生き方がずっと楽になる、うつ病になりにくくなるということです。

現代社会の問題点の一つは、心にとって負担になる考え方を、マスコミやテレビが視聴者の脳内に日々インプットしていることです。

たとえば、それまでお茶の間の人気者だった芸能人が、不倫騒動などの不祥事を起こすと、一夜にして好感度タレントから下劣な恥知らず、あるいは稀代の悪女に転落してしまう。でもそれは、1日で人格がガラッと変わったわけではない。

ある面ではいい人なのに、ある面ではちょっとだらしないところがあるというだけのことです。だから、本当はそういう見方をすべきであるにもかかわらず、マスコミは一つの不祥事でその人を全面的に否定してしまう傾向があります。

これには二つの原因があって、一つは正義か悪かの両極端でしかものごとを判断せず、その中間が考えられない「二分割思考」によるものです。

そういう思考をする人は、自分の味方だと信じていた人が、ちょっと自分を批判しただけで、「こいつは裏切り者だ、俺の敵だ」と思い込んでしまう。そのうちに周りが“敵”だらけになって、どんどん落ち込んでいく。そうするとうつになりやすいんです。

SNSに没頭する人のイメージ
写真=iStock.com/metamorworks
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