「電子レンジが使えなくなった」はかなり重症

家事を普段まったくしない男性が、奥さんが亡くなったあと、洗濯機や掃除機の使い方がわからないという場合は問題ありません。ご家族の気づきの最大のポイントは「今まで当たり前に使っていた家電が、急に使えなくなる」という点です。

また、認知症グレーゾーンで家電の使い方がわからなくなっても、操作が簡単な「電子レンジだけは使える」という人が結構いらっしゃいます。

いわば電子レンジは最後の砦で、電子レンジが使えるうちは、出来合いの総菜を買ってきてチンして食べられるため、グレーゾーンの人でも一人で生活できます。

逆にいうと、電子レンジを使えなくなったら、かなりの重症です。グレーゾーンを超えて認知症が始まった証ともいえます。診断を受けたうえで、ストーブ、コンロ、アイロンなどの危険がともなう家電の使用は避けさせることを提案します。

また、電気コードの劣化や、ほこりがたまることによる火災も考えられます。とくに、高齢の親御さんと離れて暮らすご家族は、帰省したときにしっかりと確認するなど、注意して見てあげてください。

孫の名前が思い出せなくなったら病院に行ってほしい

「あの俳優の名前、何だったっけ?」「ほら、有名な俳優だよ。えーっと……」

そんなやりとりは、年をとると誰でも増えてきます。でも、自分の子どもや孫など、ごく身近な親族の名前をなかなか思い出せない、となると話は別。認知症グレーゾーンが始まっている可能性が濃厚です。

Hさん(78歳・男性)には、2人のお孫さんがいらっしゃいます。一人は小学2年生、もう一人は幼稚園児で、ともに男の子。どちらも70歳を超えてから生まれたお孫さんなので、目に入れても痛くないほど可愛がっていました。

それが最近は、2人の孫の名前を間違って呼んだり、誕生日を忘れたりして、「おじいちゃん、大丈夫?」と、幼い孫たちに心配される始末。Hさんはすっかり落ち込み、娘さんに連れられて当院を受診して、認知症グレーゾーンだとわかりました。

Hさんの変化は、じつは自分のお子さんに対しても見られました。これまでずっと息子さんのことを名前で呼んでいたのに、急に「おまえ」とか「おい」で済ますようになったといいます。

こうした近親者の名前のど忘れが何度も繰り返されるようなら、認知症グレーゾーンへ進んでいる可能性を疑うべきでしょう。

お互いの手を握る祖母と孫
写真=iStock.com/kohei_hara
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