「同じものを買ってしまう」は普通の老化

「昨日、マヨネーズを買ってきて冷蔵庫を開けたら、未開封のマヨネーズがすでにあってびっくり。私ったらうっかり忘れて、もう本当にボケてるわ」そんなサザエさんのような失敗談は、年齢とともに増えていきます。けれども、Iさん(62歳・女性)の場合は、ちょっと違っていました。

一人暮らしのIさんは、仕事帰りに買い物をして帰宅し、冷蔵庫を開けたところ、卵の10個入りパックが3つも入っていたのです。「なんでこんなに……」と絶句したものの、「まあ、必要なものだからいいか」と思い直したIさんでしたが、なんとその翌日に、またもや卵の10個入りパックを買ってきてしまったのでした。

このように、同じものを買うことが「たまにある」のは老化現象ですが、いったん気づいたのにまた同じものを買ってきてしまうのが認知症グレーゾーンの特徴です。記憶をつかさどる海馬の働きが弱くなった結果、つい最近の出来事を覚えておくのが苦手になってしまうのです。

本人にとって「これがないと困る」と思っているものは何度も買ってくるのに対し、人から頼まれたものは買い忘れが目立つようになります。

たとえば、家族に「ビールを買ってきて」と言われても、自分の気になっている買い物で頭がいっぱいなので、人からの頼まれ事は記憶に残りません。すでにたくさん買い置きしているゴミ袋は購入しても、直前に頼まれたビールは忘れてしまいます。

「あれ? 私が頼んだビールは?」という違和感こそ、家族にとって気づきのポイントとなります。

「料理を作らなくなる」はグレーゾーンの代表的なサイン

若い頃から料理を作るのが大好きで、子どもが自立したあと、栄養士の資格を生かして自宅で料理教室を始めたJさん(66歳・女性)。

簡単でおいしい料理が評判となり、遠方からも習いに来る人が増えました。ところが、5年ほど経った頃、Jさんは急に教室を閉じてしまいました。その後、家族の食事も作らなくなり、台所に立つこともやめてしまったのです。たまたま私の本を読んだご主人が、料理を作らなくなるのは認知症グレーゾーンの代表的な特徴の一つと知って当院を訪れ、Jさんは認知症グレーゾーンの中期であることがわかりました。