認知症には、健常者と認知症の中間にあたるグレーゾーン(軽度認知障害)の段階がある。認知症専門医の朝田隆さんは「認知症の予防には愛情ホルモンのオキシトシンの分泌が重要だ。72歳の女性は、習い事のおかげでオキシトシンの分泌がうながされ、グレーゾーンから抜け出すことができた」という――。

※本稿は、朝田隆『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』(アスコム)の一部を再編集したものです。

定年後のカップル
写真=iStock.com/kitiwan mesinsom
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認知症を見事に言い表したある俳優の言葉

先日、ある方が当院へ来院されました。

ご本人はすでに自分の認知機能が低下していることを自覚されていて、検査の結果、認知機能が低下し始めていることがわかりました。そして、診察しているとき、次のようなことをおっしゃったのです。

「認知症を専門とするお医者さんや、世間一般でも、認知症というと“知(知性)”の衰えばかり言いたがるけど、“感情”の部分だって侵されるんです」

この方は日本を代表する大御所俳優の方です。私は感服しつつ、このようにお答えしました。

「おっしゃるとおりです。知能は検査機器で測れますが、感情を測る方法がないので、医者もそこにふれたがらないのです」

感情とは「意・情・知」の「情」の部分です。心が動けば脳が刺激され、グレーゾーンからのUターンに好影響を及ぼします。だからこそ私は、認知症予防および認知症グレーゾーンから回復するためのキーワードの一つとして、感情を呼び覚ます「わくわくに満ちた生活」という提案を、患者さんに推奨しているのです。

わくわくに満ちた生活といっても、難しく考える必要はありません。親しい友人たちと旅行へ行ったり、おいしいものを食べに行ったり、カラオケでストレスを発散したりするだけでも、脳を活性化するホルモンは分泌されます。

鏡の中の自分に脳内ホルモンがあふれ出す

脳が若くて活発に働いていると、感受性も豊かですから、自分の見た目に関して、いろいろなことが気になります。

学生時代、女性であれば前髪の長さがほんの少し違うだけで気分が落ち込んだり、逆にウキウキしたりした記憶があるでしょう。男性でも、60代以上の人なら、リーゼントの前髪がうまく決まらなくて、学校に遅刻しそうになった人もいたのではないでしょうか。

髪形や髪の色などを気にしているうちは、脳が健康な証拠です。逆にいうと、髪形や髪の色をいつもと変えることは、認知機能が衰え始めた脳に、適度な刺激を与えるうえでとても効果的なのです。

とくに、「髪を染めるのがめんどうくさい」「美容院へ行くのもめんどう」と思い始めたような人は、ちょっとがんばっておしゃれな美容院へ行き、「私にいちばん似合う髪形と髪の色にしてください」と頼んでみましょう。

鏡の中でどんどん変わっていく自分の姿を見て、最終的に“最高の自分”に仕上がったら、喜びで脳内ホルモンが分泌され、脳は一気に活性化します。

「きれいになったことをほめてもらいたい」と思うと、外に出て人と会うことが楽しくなります。さらに、美容院へ行くこともめんどうでなくなる、というよい循環が生まれます。

自分でヘアカラー剤を買ってきて、いつもと違う色の髪に染めてみるだけでも気分が変わります。このとき、白髪染めではなく、おしゃれ染め用のヘアカラーを使うのがおすすめです。