ドラマ『VIVANT』(TBS系)に登場した自衛隊の非公然組織「別班」が注目を集めている。『VIVANT』で公安監修を務めた元警視庁公安部外事課の勝丸円覚さんは「政府は存在を否定しているが、別班は実在する。2015年にイスラム過激派組織ISが湯川遥菜さんと後藤健二さんを殺害した時、現地の具体的な情報を日本政府に上げていたのは、別班だといわれている」という――。

※本稿は、勝丸円覚『諜・無法地帯 暗躍するスパイたち』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。

防衛省の看板=2023年2月14日、東京都新宿区
写真=時事通信フォト
防衛省の看板=2023年2月14日、東京都新宿区

「別班」は危険度の高い情報収集のため創設された

防衛省は情報本部以外に非公然組織を抱えているといわれている。その名も「別班」。私が公安監修をしていたTBS系日曜劇場『VIVANT』に登場し、話題になっていた。

防衛省では、軍事活動をする上で海外の裏情報を知ることが重要だとされているため、陸軍の軍人だった藤原岩市(1908年生まれ、1986年没)が、普通の情報機関員では手に入れることができない危険度の高い情報を集めることを期待して創設したのが始まりである。

別班のメンバーは主に防衛省から外務省に出向して、外交官として在外公館に勤務しながら情報収集をしている。それ以外の身分では、公用パスポート(政府が特別に公務員に発行するパスポート)で海外に渡っている防衛省の関係者も別班の可能性がある。

『VIVANT』では商社マンに扮していたが…

『VIVANT』で描かれていたような商社マンにふんした別班は現在の諜報ちょうほう業界を見ていると、実際に存在しているとは考えにくい。というのも、民間企業に勤務して活動させるよりも、協力者を民間企業の内部に作って情報を取るほうが安全だからだ。さらに、企業に勤めさせることになると、その後の生活の保障をする必要がでてくる。協力者を内部に作るほうが資金もかからない。加えて、公安警察でも、現在は潜入捜査をしない。それは別班が民間企業に潜入していないと考える理由と同じだ。

自衛隊の秘密組織「別班」の創設に関わったとされる藤原岩市〈1908年生まれ、1986年没〉
自衛隊の秘密組織「別班」の創設に関わったとされる藤原岩市〈1908年生まれ、1986年没〉(写真=PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons

2015年に、イスラム過激派組織IS(イスラム国)が、湯川遥菜さんと後藤健二さんを殺害した時、現地の具体的な情報を日本政府に上げていたのは、別班だといわれている。公安内部でも、「あのような情報を集めるのは、おそらく別班の関係者が関わっているだろう」との声があった。あのような危険な場所での活動は別班しかできないと考えられる。ちなみに政府は別班の存在を否定しているが、別班が集めた情報は内閣官房長官と内閣情報官に上がるので、把握しているはずだ。

別班の創設にあたり、旧日本軍の陸軍中野学校(東京都中野区)というスパイ養成機関に所属していた人々が関与していたといわれている。彼らは日本を守るという任務のためには、時に邪魔者を排除することも辞さなかったといわれている。