卓球エース張本智和の変化球サーブを打ち返す
将棋のタイトル戦で持ち時間が一番長いのは名人戦の各9時間ですが、名人戦は2日制なので、1日計算では4時間半になります。では、1日制ではどうかというと、王座戦の各5時間が最も長くなります。各5時間ということは2人で10時間ですから、かなりの長丁場となります。
「ここ一番」での棋士の集中力はかなりのものですから、そうした集中力を発揮しながら、これだけの長丁場を戦うというのは精神的にも肉体的にも大変なことです。タイトル戦を一局戦うと、体重が減ると言う人もいるところに、その激しさ厳しさがよく表れています。そのせいでしょうか最近は若手棋士で筋トレやランニングをしている人も結構多いようです。こうした傾向について、藤井はこう話しています。
「メンタル的にもいいという側面もあるでしょうが、対局において、フィジカル的な面も要素として必要だからかなと思います。今の自分だと、まだまだ盤上の技術だけで伸びているのかなと、これから健康管理も大事になってくると思います」
藤井は元々中学二年生の時に50メートル走を6秒8で走っていたといいますから、全国平均の7秒8と比べればかなりの健脚です。藤井自身、長距離は苦手と話していますが、50メートルのタイムを見れば、将棋だけでなく、スポーツでもある程度の才能を発揮できたはずです。
実際、新聞用の対談で、卓球の張本智和と話し終えた後、張本からラケットを渡され、張本が打つサーブをレシーブしようと挑戦したところ、10球ほど空振りしたものの、そこから変化するサーブを見事に打ち返すようになったといいます。張本が「藤井さん、すごいですね」と驚いたといいますから、運動能力もかなりのものです。
藤井はまだ若く体力もありますが、それでも多くのタイトルを持つだけに、一年間に渡っていくつものタイトル戦を戦い抜くための課題の一つは体調をいかに万全の状態に保つかです。それを意識してか藤井は自宅で腕立て伏せや腹筋などを始めたといいますし、一時期は体力づくりのために散歩を始めたものの、こちらはすぐにやめてしまいました。
理由は「散歩に行った先から返ってくるのが面倒なんです」というものですが、幼い頃には将棋のことに集中するあまり、「道を歩いているとよく側溝に落ちた」とも言いますから、健康以前に事故を防ぐ意味でも、散歩に出かけるより、自宅の中を歩く方が藤井には向いているのかもしれません。藤井にとって今後も勝ち続けるためには、盤上の技術に加え、メンタルとフィジカルをいかに良い状態で維持し続けるかも大切になってくるのです。
★ワンポイント 勝ち続けるためには技術に加え、心身両面の充実も欠かせない。