秀吉でも家康でもなく「自分は信長」と言う理由

藤井聡太の名言

自分は、信長かなと思います。

(『考えて、考えて、考える』丹羽宇一郎・藤井聡太著、講談社)

今や藤井聡太は愛知県を代表する有名人の一人ですが、愛知県というとすぐに思い浮かべるのが織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三英傑です。名古屋の秋を彩る最大の祭り「名古屋まつり」では、三英傑が数百人の人を従えて行列をする「郷土英傑行列」が行われるほどですから、愛知県の人にとってこの三人がいかに誇らしい存在かがよく分かります。

三人の性格はまさに三者三様です。

よく知られているのが「信長がつき、秀吉がこねし天下餅、座りしままに食うは家康」という三人の性格や役割を表した歌です。

また、「鳴かぬなら殺してしまえほととぎす」「鳴かぬなら鳴かせてみようホトトギス」「鳴かぬなら鳴くまで待とうほととぎす」という、こちらも三人の性格を表した歌として知られています。

もちろん現実には徳川家康はただ待っていただけで天下人になれるわけもなく、生死を賭けた戦いを何度も経験し、着実に力を蓄えていくことで初めて天下人となり、戦国時代に終止符を打つことができたわけですが、あくまでも三英傑の対比となると、やはり「待ちの人」ということになるのでしょうか。

同じ愛知県出身の実業家、丹羽宇一郎から対談で「藤井さんはこの三人だと誰が好きですか」と聞かれた藤井の答えは「自分は、信長かなと思います」でした。理由はこうです。

「信長は、チャレンジ精神や積極性がある人物だと思うからです。自分も常識にとらわれず将棋に向かっていく、革新的なところを大事にしていきたいと思っているんです」

狩野宗秀作、織田信長像(部分)
狩野宗秀作、織田信長像(部分)(画像=長興寺所蔵/PD-Japan/Wikimedia Commons

藤井はプロ棋士になって以降、数々の記録をつくり、過去の記録を更新し続けています。

それだけでは十分に革新的と言えますが、「棋士になった頃から、コンピュータに関係なく面白い将棋を指せるように頑張りたいと思っています」とも考えていました。

藤井が登場する何年か前に、「将棋はオワコンだ」という趣旨の発言をした人がいましたが、たしかに将棋人口の減少など当時の将棋界がいくつもの課題を抱えていたのは事実です。そこに表れたのが藤井であり、藤井の登場によって将棋への関心が一気に高まったわけですから、その意味でも藤井は将棋界の閉塞へいそく感を打ち破り、数々の記録を更新する革命児であるのはたしかです。やはり藤井は信長なのかもしれません。

★ワンポイント 常識に縛られることなく、革新的であれ。