脳を気にするよりも迷走神経を意識した腸活を

ここまでで、迷走神経を整えるためには、腸内環境が整っていることが重要であることはおわかりいただけたでしょう。

しかし、この腸内環境は、いともかんたんに乱れてしまうのがやっかいなところです。「腸内環境の乱れ」と聞けば、偏った食事や不規則な生活などがすぐに思い浮かびます。これに乗じて、最近では「腸活」という言葉を耳にする機会が増えました。

腸活で大事なことは、わたしたちにとってはなくてはならない腸内細菌を、ペットのようにいつくしみ大切に育てていくことです。あるいは、ガーデニングで美しい花を咲かせるために手間暇かけるように、お腹のなかにきれいな花が咲くよう、しっかり腸内環境をケアしていく意識がなによりも大切です。

腸は、とても頼りがいのある器官です。なぜならば、腸は、体全体のことを考えてくれているからです。腸に張りめぐらされた神経細胞が、自分の体にとって良いか悪いかを判断して、体内に入れてはいけないものをブロックします。かりに必要なものであっても多すぎれば排泄してくれます。腸がみずから考え、判断してくれるのです。

脳と腸のイメージ
写真=iStock.com/inkoly
※写真はイメージです

それに比べて、脳は身勝手な器官と言われても仕方ありません。体に悪いとわかっていても甘い物を食べすぎてしまうのは、体のことなどお構いなしに「脳が欲している」という理由だけで食欲を生んでしまうから。言うなれば、脳は、あまり体のことを考えていません。

なぜ腸と脳とでは、ここまで違うのでしょうか。腸内細菌に、そのヒントが隠されていると考えています。腸内細菌はわたしたちと共生しています。人が腸内細菌がなければ生きていけないように、腸内細菌も宿主である人が死んでしまえば死滅してしまいます。

そこで、腸内細菌が自らの命を守るために、宿主である人が健康を維持できるよう誘導しているのかもしれません。

また、腸には迷いがありません。腸が満足することは、かんたんに言えば、栄養をしっかり吸収し、ぜん動運動をきちんと行なって便を外に押し出すことです。もっと言えば、ぜん動運動さえきちんとしていれば、善玉菌が「やや優位」になって腸内環境は整っていきます。腸のぜん動運動は、副交感神経が「やや優位」のときに活発になります。つまり、迷走神経を意識した腸活を行なうことが重要なポイントです。