差別社会の復活へと動くかつての白人中間層

なぜここまでトランプが支持されるのだろうか。トランプ支持者は、ある種のリーダーシップを感じ、そこに惹かれているようである。悪ガキの典型である彼には、やることが大胆で決断力があり、昔の「ハンサムでお金持ちのプリンス」のイメージがいまだに残っている。

トランプは「古き良きアメリカをもう一度取り戻そう」という「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(MAGA)」をスローガンに掲げてきた。「古き良きアメリカ」とは、白人としてアメリカで生まれさえすれば中流的な生活が営めていた時代のイメージである。それは先行してヨーロッパからアメリカに渡ってきた白人層が、他人種移民の低賃金労働によって支えられてきた歴史であり、アメリカ建国以来の多民族社会の矛盾と表裏一体でもある。その後、公民権運動などを経て、こうした矛盾がだんだん解消していき、非白人層も国民として十分な権利と経済力を持つようになった。1960年代初頭に留学生として初めてアメリカを体験した私も、女性の権利の向上、多様性を重んずることで経済発展していくアメリカの歴史を目の当たりにしてきた。

しかし、産業構造の変化によってかつての白人中間層が不満をいだいているのも事実であり、差別社会の復活を通じて自分たちの助けにしようという動きが出てきた。それに火をつけたのが差別的態度をあからさまに示すトランプであり、前述のデサンティスである。

2021年7月5日、共和党のトランプ・ラリーの駐車場に駐車しているドナルド・トランプ・トレイン・メイク・アメリカ・グレート・アゲイン・バス
写真=iStock.com/Melissa Kopka
※写真はイメージです

一方、再選を狙うバイデンは正面から問題に取り組み、国民に絶えず語りかけている。ただし、そのまじめな話しぶりのせいか、大衆をはっとさせるようなカリスマ性に欠けるのが、人気がぱっとしない理由の一つであろう。民主党政権内からも、国民を魅了する政治家がなかなか現れない。

トランプが放置したコロナ禍の後始末を、バイデンが2兆ドルのインフラ投資をはじめとする大胆な財政出動で乗り切ったことは評価しなければいけない。しかし、国民が感ずるのは、その後の物価上昇であろう。コロナ後のアメリカ経済は堅調で、ここにきてインフレ率も徐々に落ち着いてきた。それでもコロナ前の19年に比べ、10月上旬の時点で牛乳の価格は29%、ガソリンの価格は46%も高い。生活水準に影響するのは、インフレ率ではなくて、諸物価の水準である。インフレ率が低下したからといって、物価が下がるわけではない。平均賃金も上昇してはいるが、ほとんどすべてのモノやサービスの価格がコロナ前より一段階上がっているので、国民は間違いなく痛みを感じている。