フェアな取り組みで男性の満足度も上がった
【趙】ただ、今回の評価報酬プロセスに対するサーベイをしたところ、男性も女性も全体の満足度は上がっていたんですよ。自分が対象かどうかに関わらず、フェアな取り組みに対してみんなの満足度が上がるんだというのは、ひとつ発見でしたね。
【山本】おっしゃるように、男性からは不満があったとしても、言いづらいかもしれませんね。でもフェアな取り組みによって、女性だけではなく、全体の満足度が上がるのは面白い。
【趙】私も予想していなかった反応でしたね。D&Iの取り組みをしていると「結局どっちも幸せになってないんじゃないか」と感じてしまうシーンが多いんですよ。女性管理職を増やそうとアクションしても、その女性が「自分がいいパフォーマンスをできなかったら、D&I自体を否定することになるのでは」と自分自身にすごくプレッシャーをかけてしまったり。男性は男性で不満を持っている。でも今回は両方の満足度が上がることになって、すごく嬉しい経験だと思いました。
客観的な指標があれば、難しい議論も進められる
【工藤】最後に、ほかの企業に対するアドバイスや成功の秘訣、失敗から学んだことなどあればご紹介いただきたいです。
【趙】アドバイスというのはおこがましいくらい、日々悩みながら仕事をしています。企業の中でD&Iを進めて行く際に大切なのは、「ロマン」と「ソロバン」なのではないかと私は思っています。理想の「ロマン」も大事だし、数字の「ソロバン」も大事。理念の話も大切で、私自身も勉強する日々ですが、同時にそれを実現するアクションの際には数字の話も出来た方がいい。
ペイギャップに限らず、この手の議論を女性である私がリードする難しさがあると思っているんです。当事者性の扱い方が難しいと言いますか、原動力としては必要なんですけれども、それが必ずしもそのままマジョリティに受け入れられるわけではないことも感じています。
ですが今回のペイギャップ是正の取り組みは、報酬データという客観的な指標を真ん中に置いたからこそ、議論がスムーズに進んだのだと思います。実際に役員に提案した資料も、データでコミュニケーションをすることを意識しました。それができるのが、報酬という素材のいいところだと思います。客観的データを出すことのパワフルさを感じました。
「ロマン」で旗印を掲げながら、「ソロバン」を弾きながらアクションしていく。とはいえ、その両立はとても難しいとも感じています。どちらかに偏っているなと思ったら、反対の方向に重心を置きにいったりと、今も探り探りやっていますね。