もし私が吉野家の戦略を策定するなら、海外出店を本格化させる。吉野家の強みは、「働くオトコ」の胃袋を支えてきた歴史と味への徹底したこだわりにある。現在の多様化した国内市場ではその強みを活かしきれなくても、成長途上にあるアジア諸国には、エネルギーになるものをガッツリ素早く食べたいというニーズがまだあるはずだ。現在、吉野家の海外出店はアメリカや中国が中心だが、ベトナムやタイなどの新興国にもチャンスがあるだろう。

消費者が満足しきっていない市場を見つけ、そこで他社が容易に真似できない強みを発揮するという点では、ソフトバンクの戦略が面白い。

携帯電話市場の王者はNTTドコモである。だが、ソフトバンクはアップルのiPhoneやiPadを実質的に独占販売する契約を結び、スマートフォンの普及とともに勢力図を塗り替えようとしている。iPhoneやiPadはガラケー(スマートフォンではない従来の携帯電話)やノートPCに満足していなかった層への訴求力が高く、将来有望な製品だ。しかもソフトバンクはその新市場を実質的に独り占めすることに成功した。他社に真似できない打ち手があってこそ、STPによって導かれる戦略も効果を発揮するわけだ。(※雑誌掲載当時)

では、業界1位が持っていない自社の強みはどこにあるのか。また、業界自体がどのような競争環境に置かれているのか。それらを把握するには、「SWOT分析」や「5forces分析」が役立つ。

SWOT分析では、自社の強みと弱み、機会と脅威でマトリックスをつくり、自社が取るべき戦略を探っていく。5forces分析では、業界構造を決める5つの競争要因(既存業者間の競合関係、新規参入の脅威、代替製品・代替サービスの脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力)から全体の競争環境を俯瞰する。

ただし、これらのフレームワークは自社の強みや競争環境を客観視する助けになっても、それだけでは戦略を構築するためのプロセスが明確にならない。結局は戦略策定者の仮説に頼ることになる。そして、仮説構築において重要なのは、過去からの知見やセンスである。

(構成=村上 敬 撮影=市来朋久)
【関連記事】
売れない時代にモノを売るにはどうするか
20年間シェア1位「お~いお茶」に学ぶ市場の創り方
940円で2248kcal -吉野家vsすき家vs松屋「牛丼戦争」勃発
なぜ「セオリー」は企業をダメにするのか
なぜ、復活牛丼は「380円」だったのか:吉野家式会計学(1)