吉野家復活のカギはアジア攻略にあり
一方、女性客にとって、男性イメージの強い従来の牛丼チェーンは敷居が高かった。そのため手軽に食事をすませるとなると、ハンバーガーチェーンやコーヒーチェーン、あるいは弁当を買って家で食べるくらいしか選択肢がなかった。
こうした層への訴求力を高めるために、すき家は、楽しい食卓を外で実現させることを目指し、市場内での差別化を図った(ポジショニング)。楽しい食卓というコンセプトは、品質重視で肉に強くこだわり、主にカウンターで迅速に商品提供して回転率を高める吉野家と対極にあり、訴求したいターゲットも異なる。このように別の土俵をつくりあげることで、はじめて逆転の目が見えてきたのである。
戦略が決まれば4Pも決まる。ファミリーでも財布の中身を気にしないでいい価格設定(プライス)、食の細い女性や高齢者にも対応できる牛丼サイズの細分化、ソフトクリームなどのデザートを含め、多様なニーズに対応するメニューの開発(プロダクト)、3世代家族を登場させたCM(プロモーション)。これらの施策は、すべてSTPありきで決まったはずである。
では、吉野家や他の牛丼チェーンが同じようにファミリーや女性客をターゲットにすれば、すき家を逆転することは可能なのだろうか。
実はここにSTPの難しさがある。どんなに有望な市場が見つかっても、そこで発揮できる自社の強みがなければ、優位性のあるポジショニングはできない。逆に言うと、STPとは、市場の中で自社に1番になれるものを探す、あるいは自分が1番になれるように市場を括り直す戦略策定法といってもいい。