ファーストクラスの値引きをしなくなった理由

それとともに、ファーストクラスのチケットの値引きもなくなりました。以前は、購入する時期などによってはエコノミーと同程度の値段で買うこともできたのですが、それをしないようになったのです。ファーストクラスに乗って、それだけのサービスを受けたい人は、それでも乗るのです。

お客さまから見て付加価値が高ければ、価格は高くできます。付加価値活動のコストを削減して、付加価値を下げてしまっては、利益を圧迫するだけです。

私が経営者の方によくお話しするのは、「一番厳しいお客さまの目になって、自分の会社を見ないといけない」ということです。とくに航空は新規参入がそれほど簡単な業界ではありませんから、どうしても内部志向になりやすい。だからこそ、経営者はつねに外部志向を意識しないといけないし、それがひいては従業員全体の経営やお金のリテラシーをつちかうことにもつながります。

値段を下げて客数を増やそうと、提供する食事をつくるコストを削減した結果、味が落ちて客離れを起こしてしまったファミリーレストランなど、付加価値活動のコストカットによって経営が悪化した例は数多くあります。コストカットの大原則は、非付加価値活動から行なうということです。

経営状態が良くても銀行員とは定期的に会うべき

会社全体としてコストカットの意識を高めることは、経営危機の際に銀行からお金を借りるうえでも必要不可欠です。

たとえば、資金繰りが厳しいときに新規事業を立ち上げるといっても、銀行は首を縦に振りません。新しい商品を開発するにも資金的余裕がなければいけないわけで、かえって火の車になると判断するのは当然です。そうなると、まずはとにかくできるかぎりコストカットすると銀行側に説明するべきです。あわせて経営者は自分の給料を減らすなど、率先垂範して行動するのは当然の話です。

小宮一慶『だから、会社が倒産する』(PHPビジネス新書)
小宮一慶『だから、会社が倒産する』(PHPビジネス新書)

銀行が融資するか否かを判断するうえで、大前提として経営者が必死かどうかを見ます。もちろん、すべてが人情の世界とはいいませんが、危機を前にしても依然として偉そうに構えて身の回りにもメスを入れないような経営者では、銀行員の心を動かすことは難しい。

ついでにいえば、経営者は普段から金融機関と接しておくべきです。経営状態が良いときも悪いときも、たとえば最低でも3カ月に一度は銀行の支店長を訪問して現状を報告しておけば、いざというときに忌憚きたんなく相談できます。

雨の日になってから「傘を貸してください」と頼んでも、とくに経済危機の折には他の企業も同じように銀行に相談しているわけで、そう簡単にはいきません。

経理任せでは経営はできない

銀行はよく悪し様に語られがちですが、彼らは彼らで預金者から大事なお金を預かっているわけです。それも非常に薄い利ザヤのビジネスをしています。そうした銀行との折衝は、普段から経理の人間に任せるばかりでは不十分なケースがあります。

ただし、銀行からお金を借りるために事業を考えるのでは本末転倒です。銀行の審査を通らないような事業では話になりませんが、事業はお客さまや社会のほうを向いて考え、マーケティングとイノベーションに思考を集中させなければなりません。

ホテル業のように先行投資が必要な事業もありますが、いまはさまざまなもののソフト化が進んでいますから、お金を借りなくてもできる事業が増えています。

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