ソ連の強奪でウクライナは大飢饉に見舞われた

【松本】ここで、ウクライナに目を向けてみましょう。当時、ウクライナで凄まじい餓死が発生したと聞きました。

【茂木】共産党が政権を取るのは、世界史上初めてのことでした。今で言えば、アルカイダやISが政権を取るような大事件です。危険を察知し、世界中が潰しにかかりました。1918年から1922年にかけて行われた第一次世界大戦の連合国による「シベリア出兵」や「対ソ干渉戦争」と呼ばれるものはそれが目的です。

レーニン側から見れば、世界中の資本家たちが向かってきたということです。「これを機に、世界革命へ」とソ連は臨戦体制に入ります。しかし、ソ連では食料不足が深刻な問題となっていました。モスクワ周辺だけでは足りないので、ウクライナでつくっていた穀物を強奪した。その結果、ウクライナで大飢饉ききんが始まりました。

【松本】このウクライナの大飢饉と後のヨシフ・スターリンによる粛清によって、数千万人のウクライナ人とロシア人が亡くなったと聞きました。

「ウクライナ人の数を減らす」民族の殺戮が行われた

【茂木】スターリンは党内の権力争いを制して、1924年に最高指導者になります。対外戦争はすでに終わっているのに、スターリンは計画的にウクライナから食料を奪い取る政策を続けました。

もともとウクライナ人はロシア人とは違う民族であり、独立志向がありました。ウクライナが独立してしまえば、モスクワには食料がなくなってしまう。絶対にウクライナの分離を許すことができないスターリンは、ウクライナ人の数自体を減らして反抗する力を奪うという作戦を採ったのです。

穀物
写真=iStock.com/Michele Ursi
※写真はイメージです

【松本】それは、計画的な民族の殺戮です。

【茂木】その通りです。現在ウクライナでは、ナチス・ドイツの「ホロコースト」に匹敵する大虐殺としてこのことを教えています。

【松本】どうして私たちはそれを世界史で習わないのでしょうか?

【茂木】まったく奇妙ですね。世界史の教科書では「ウクライナで飢饉が起こった」で、おしまいです。この大虐殺は、一般的に「ホロドモール」と呼ばれている出来事です。興味のある方は、インターネットで検索して調べてみてください。写真なども出てきます。

【松本】このスターリン時代には、共産党の中でも大粛清が行われました。

【茂木】悪いのはスターリンであってレーニンまでは良かった、という説明が一般的によく見られますが、これは事実に反します。殺戮を始めたのはレーニンからです。共産主義者としては、「革命の父」であるレーニンを貶めることはできないので、「悪いのはスターリン」ということにしたのでしょう。