「機能リベート」へ従来型からシフト

リベートには販売のインセンティブになるとか、流通在庫の処分などの際に弾力的な価格運用を可能にするといった有用な面があるが、その半面、乱用すればメーカーの利益を圧迫し、安売りの原資となって長期的にはブランドイメージを損なうという危険もある。

また、日本的な商慣行のもとでは、一時的なシェア拡大の代償としてリベートが複雑化・ブラックボックス化し、経営の障害となってしまうことも珍しくない。というのは、リベートの金額・条件は基本的に営業現場の判断で決められるため、そのままでは全体としての整合性がとれず、取引先の重要度との相関もバラバラになってしまうという問題があるからだ。

リベートを廃止することでこれらの課題を解決しようという試みは、ここ20年来、さまざまな業種で続けられてきた。

数少ない成功例といえるのが携帯電話業界だ。2007年、NTTドコモなど大手キャリア3社は、それまで携帯電話端末に対して支払っていた販売奨励金を廃止した。これによって端末価格が大幅に上昇、売り上げも一時は落ち込んだが、分割払い方式を導入するなど販売スタイルの工夫によって、再び回復軌道に乗りつつある。

一方、歴史が古く典型的なリベート依存型である食品小売業界などでは、想像以上に体質転換が難しい。こんな例がある。

05年、大手ビールメーカー4社が相次いで「リベート廃止」を宣言した。各社はこれによってビール類の小売価格が5~10%上がるものと想定したが、蓋を開けてみると値上げは浸透しなかった。

なぜなら小売店にとってビールは集客の目玉。簡単には値上げできないという事情があった。中小の小売店は自らの利益を削ることで、イオンなど大手は当初からリベート廃止を認めないとか、卸を外しビール会社から直接購買することで、従来の低価格を維持したのだ。

結局、ビール4社の会計報告書における販売奨励金等(広い意味のリベート)の項目を見るかぎり、廃止宣言を機にリベートが減ったという事実は一部を除き認められない。メーカーの強い決意にもかかわらず、リベート廃止は実現しなかったのだ。

ただ、ビール各社の取り組みを一概に失敗と決め付けるのは早計だ。近年は国内市場の成熟化を映して、シェアより利益率を重視し、ブランド力の確立に注力するメーカーが増えている。安売りを誘発するような古典的な形のリベートは、どの業界でも減らされていく傾向にある。

実はビール業界も同様で、リベート廃止宣言以降、費用課目としての販売奨励金は減っていなくても、旧来型のリベートに代わり、販売プロセスに対して支払われる「機能リベート」の割合が高まっているとみられる。たとえば「推奨される鮮度管理システムを採用した」「販促イベントに協力した」といった、小売業者の努力に応じて供与されるリベートだ。

これだと必ずしも売り上げ増加には結びつかないものの、利益率は改善する。長期的にみればメーカーにとって好ましい影響があるというべきだ。

リベートは対象製品や期間をしぼって明確な目的のもとで戦略的に展開するなら、マーケティング上も有用な手段である。料理の最後に加える調味料のようなものだ。その一振りがあることで一皿の味が冴えることもあるが、頼りすぎると料理の腕が落ちてしまう。販売もリベートに頼るのではなく、まず商品力を向上させ、販促の手段としては広告や企画の内容で勝負してゆくことが本道である。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=久保田正志)
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