男同士のプレイ内容を赤裸々に語った
私は浅草ビューホテルの一室で北公次と向き合い、半生を聞き出す作業に没頭した。
元アイドルはすべてを語り尽くしたかに思えたが、あのこと、ジャニー喜多川との関係についてはなかなか真相を語らなかった。
4日目になって村西とおるから真剣に説得されたことがきっかけで、ついに封印していたあの関係をさらけ出した。
当初は抽象的な表現ばかりだったが、私が具体的な話を求めると、本人も吹っ切れたのか、写実的に語り出した。
男同士のプレイ内容を赤裸々に語ったのも、当時としては極めて珍しいことだった。
「青いラベルが貼られたノグゼマ」を愛用していた
書き手としてためらいもあった。
「ジャニーさんがメンソレータムもって部屋にくるの……」という小学3年生の発言を北公次は聞いている。
北公次自身もスキンクリームを使用したプレイをおこなっていた。
後に、性加害を受けた元ジャニーズ事務所タレントが、ジャニー喜多川社長から、このクリーム買ってきて、とたびたび頼まれたのが、青いラベルが貼られたノグゼマだったという証言がある。
メンソレータムもノグゼマも共にアメリカ発のスキンクリームであり、ジャニー喜多川が進駐軍関係の仕事をしていたことから、なじみ深いものになったのだろう。
北公次の告白を聞き出し、カセットテープから文字を書き起こし、データ原稿にする。
重労働だが、元アイドルの全告白は良質の長編小説を読んだような重さと感動を私に与えた。
小説でも映画でも演劇でも漫画でも、もっとも大切なのはオリジナリティである。
その時その場所でその体験をしているのは、全世界においてその人しかいない。
ゆえに、人間の半生こそ、最高のオリジナル作品である。
小説や映画に駄作はあっても、人間の半生に駄作はひとつもない。
最高のオリジナルなのだから。
北公次が封印してきた過去を洗いざらい語った内容を書き下ろし本として世に出せば、当然事務所社長との同性愛関係に関心が集中するだろう。
私にとっては、ジャニー喜多川と北公次の若く無名の貧しいころから夢を見つづけた一編の青春ストーリーでもあった。
タイトル案は難航したが、版元のデータハウス鵜野義嗣代表が『光GENJIへ』という書名を提案してきた。
当時、人気絶頂だった光GENJIに向け事務所の先輩が警告を発するという体裁だ。