「芸能史に残る」瞬間
2023年9月7日14時。誰もが、いよいよ「帝国」と呼ばれた男性アイドル事務所が瓦解する瞬間を、日本の戦後最大の「芸能史に残る」瞬間を待ち構えていた。
BBCのドキュメンタリー番組放送から約半年。『週刊文春』による大々的なジャニーズ事務所の性加害告発キャンペーンからは四半世紀近く。これで日本の罪深く後ろ暗い風習に満ちた「芸能」が変わり、華やかな光の強さゆえにその影も濃いエンターテインメントのあり方が変わるのだろう、2023年はすごい年になりますね、と誰もが事前に噂した。
直前に発表された「外部専門家による再発防止特別チーム」の報告書では、「ジャニーズ事務所は、性加害の事実を正面から受け止め、その責任の重大さを痛感し、被害者に対して十分な救済を行うとともに、ジュリー氏の代表取締役社長からの辞任を含む解体的出直しを図らなければ、社会からの信頼を回復することは到底期待することができないことを覚悟しなければならない」とまで厳しく断じられたばかりである。
その「解体的出直し」を期待し、見守るつもりでいた報道陣が、視聴者が、記者会見場の4つの席を凝視していた。
芸能界の乖離を露呈した記者会見
果たしてそこに居並んだのは、藤島ジュリー景子氏、東山紀之氏、井ノ原快彦氏、弁護士の木目田裕氏と、黒スーツにメガネという揃いのいでたちで頭を下げた4人。ジャニーズ事務所がジャニー氏による性加害事件についてようやく開いた初めての会見を中継で見ながら、人々はむしろ芸能事務所や「芸能人」と呼ばれる人々の社会からの乖離――世間知のなさ――を知り、さらにはジャニーズ事務所における「洗脳」の深さを知った。
「解体的出直し、って言われてたよね? なのにジャニーズ事務所の名前から変えないって、どこが解体なの?」
「自分たちの思いがどうこうより、加害者であるジャニー氏の名前を掲げる時点で何のイメージの漂白にもならないし、組織内の反省や再生の意思も伝わらないってすぐに理解できてないのが……重症って感じ」
「いや多分、あれだけ利益を上げて影響力を持ってても、自分たちが組織だという自覚はないんだよ、ファミリーってやつでしょう。会見の言葉の選び方も、やっぱりタレントさんなんだな、実社会経験がないんだなと、ちょっとがっかりした。本当に世間を知らないんだね……」