「根拠のない自信はどこから来るんですか?」

【内田】白井さんも同じだと思いますが、僕も不特定多数の人間からの承認とか称賛とか、ぜんぜん欲しいと思わない。他者からの承認に飢えていないから。自分は自分の意思で、自分がやるべきこと、自分がやりたいことをやっている。誰かに許諾されないとやらないということもないし、誰かに評価されるためにやっているわけでもない。承認なんかあろうがなかろうが、やることはやる。

以前、講演のあと、フロアーからの質問で「内田さんのその根拠のない自信はどこから来るんですか?」と聞かれたことがあります。困って、「子どもの頃に内田家のみなさんからかわいがっていただいたからではないでしょうか」と答えました(笑)。白井さんもそうじゃないですか。

【白井】そうだと思いますね。私がまったく無名だった時分によく言われたのは「何の業績もないくせに何でそんなに偉そうにしているのか」。しょうがないですよね、だって偉いと思っているんだから(笑)。

教師の一番大事な仕事は「歓待と承認と祝福」

内田樹、白井聡『新しい戦前 この国の“いま”を読み解く』(朝日新書)
内田樹、白井聡『新しい戦前 この国の“いま”を読み解く』(朝日新書)

【内田】子どもの頃、家族にかわいがられて、抱きしめられて育った人はだいたいそうなるはずなんです(笑)。前に鈴木晶さんから伺ったんですけれど、人が根拠のない自信を持つのは、子どもの時に母親から豊かな愛情を注がれた結果なんだそうです。「こういう条件を満たしたら抱きしめてあげる」という子どもの側の努力の成果との引き換えでの承認ではなく、無条件に承認され、愛されてきたという幼児経験がある子どもには承認に対する飢えがない。だから、有名になりたいとか、威張りたいとか、相手に屈辱感を与えたいとか、そういう欲求がわいてこない。でも、今の日本社会を見ていると、その逆の人たちばかりになっている。たぶんこれはある時点から「軽々しく子どもを承認してはいけない」というルールが育児の中に入ってきたからではないかと思います。少なくとも学校教育の中では深く制度化されている。

教員たちの集まりによく呼ばれるんですけれども、そのときには教師の一番大事な仕事は、歓待と承認と祝福だという話をします。「ここは君のための場所だ」と言って子どもたちを歓待すること、「君にはここにいる権利がある」と言って子どもたち一人一人を固有名において承認すること、そして「君たちがここにいることを私は願っている」という祝福を贈ること。その三つができたら、それだけで学校教育の一番たいせつな仕事は終わっている。教科なんて別に教えなくても構わない。そう言うと、先生たちは驚きながらも、頷いてくれます。

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