いきなり話題になる早道は「破壊すること」

【白井】本当ですよ。しかも、誰でもそんな簡単に面白いことが言えるものではありません。それでもアクセス数を稼ごうとするから迷惑行為に走るわけです。近年は迷惑系YouTuberになって大炎上するという、ほとんど定番のルートができています。

【内田】そうですね。いきなり世間の話題になるための早道は「破壊すること」なんです。みんなが守っているルールを破り、世の良風美俗をあざ笑うという行為が一番注目される。それ以外に発信すべきコンテンツを持っていない子どもたちにしてみたら、「アクセス数を稼ぐ」ためには、みんながたいせつにしているものに唾を吐きかけるのが一番効率的なんです。

デジタルコンテンツのコンセプト
写真=iStock.com/metamorworks
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【白井】ポップ・アートの巨匠アンディ・ウォーホルは60年代後半に「誰でも15分間は有名になれる」と言いました。まさに今のメディア環境は、それを実現する世界になっているわけです。これはある意味、ろくでもないことですよね。有名になりたいという欲望とテロのような暴力が結びついているのであれば、なおさらです。

【内田】世間の耳目を集めて、自分についてもっと語ってもらいたいという点では同種の欲望なんだと思います。出方はずいぶん違うし、刑事罰を受けるリスクは桁違いですが、社会的な注目を浴びて、自分の存在を承認されたいという欲求に駆動されているという点ではよく似ている。この過剰な承認欲求は今の日本の社会的な病だと言ってよいと思います。

目標を達成しなければ「承認」してもらえない

【白井】イタリアの社会学者ラッツァラートが、本の中で欧米でも頻発している無差別殺人について、犯人たちの欲望あるいはメッセージの究極のところは「自分はここにいるんだ」ということだ、というふうに分析しています。まさにそれですよね。自分はここにいるんだということを、そこまでしないと認知してもらえない感じが、言ってみれば悪い空気のように日本に限らず流れているのでしょう。

【内田】日本の場合は制度的な問題が大きいと思います。子どもたちの承認欲求を絶えず欠如するようにしておいて、ある目標を示して、これを達成したら「承認してあげる」というやり方で、子どもたちを誘導している。家庭でも、ある目標を設定して、「これを達成したらうちの子として承認するが、達成できなければ、承認しない」というストレスを子どもにかけるようになっています。